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2025.10.15 12:00

LGBTQ向けアプリ「Grindr」買収・上場でいかに1500億円の資産を築いたか? その内幕

2022年11月の上場時、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の外壁に自社バナーを掲出した。(Photo by Spencer Platt/Getty Images)

「レンタルオフィス」を狙い、パンデミック禍での逆張り投資

ゼージはパンデミックのさなかに、別の新たな案件の情報を耳にして、いつものように素早く動いた。2021年6月、ティガはプライベートエクイティ大手KKRのクレジットチームと組み、HPEFキャピタル・パートナーズ(旧HSBCプライベートエクイティ)とCVCキャピタル・パートナーズが保有していた高級レンタルオフィス運営会社TECの持ち分を、非公開の金額で買収した。彼らはゼージを筆頭株主として、TECの親会社の過半数株を取得し、ティガのマネジングディレクターであり、かつてファラロン・キャピタルに在籍していたアシシュ・グプタと、TECの創業者でCEOのポール・サルニコフがそれぞれ少数株を取得した。

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「この取引と、KKRが組んだディールの構造は、私がファラロン時代に貸し手として手がけていた案件と非常によく似ている。ただ異なるのは、今回は私が借り手の立場で、KKRが我々の過半数取得を支援してくれた点だ」とゼージは説明する。1994年に設立された香港に本社を置くTECは、中国本土やシンガポール、インド、アラブ首長国連邦、オーストラリアなどの15の市場で事業を展開しており、ゼージが関わる以前にすでに4回のプライベートエクイティからの資金調達を経ていた。

市場の逆を行く逆張り投資、混乱期にこそ優良資産を狙う

そのわずか2年前、TECの企業価値を7億5000万ドル(約1140億円)とする買収提案が報じられていたが、香港の反政府デモの影響で棚上げとなった。その後、ソフトバンクが支援するコワーキング大手WeWorkが巨額損失と上場撤回、そして企業価値の急落によって崩壊した。追い打ちをかけるように、パンデミック初期の行動制限でオフィス利用率が急落した。

「2019年前半の熱狂から2021年までの間に、市場環境は根本的に変化し、評価額も大きく変わった。TECは突然、本当にお買い得な案件になった」とサルニコフは振り返る。TECの事業価値は、最大50%引き下げられたと推定されている(サルニコフ自身も2021年にティガとKKRの投資に合わせて持ち分を増やしている)。

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「逆張りの投資家であるレイは、何らかの理由で価格が大きく下がった優良資産を狙うタイプだ」とサルニコフは評している。彼は、交渉を進める上でゼージとの相性の良さが重要だったとし、「TECを長期的な投資対象とする」という点で両者の考えが一致していたことを明かした。

事業は急回復しインドで上場へ、次の大きな利益も視野に

「私たちがTECを買収したのは、ちょうど新型コロナの影響でEBITDAが落ち込んでいた時期だった。だが、その後の事業の回復は驚くほど順調だ」とゼージは語る。彼によると、同社の事業のなかで、10拠点を展開するシンガポールが最も収益性の高い市場だという。

また、7月には、インド、東南アジア、中東の事業を統合した子会社の「エグゼクティブ・センター・インディア(TECインディア)」が上場に向けた予備計画を発表した。同社は、上場によって得られる推定3億ドル(約456億円)の資金を内部再編や負債削減に充てる予定だ。

TECへの投資は、ゼージに再び大きな利益をもたらす可能性がある。コワーキングや短期賃貸型オフィスなどの「フレキシブルオフィス市場」は上向き傾向にあり、TECインディアの稼働率は過去3年間、90%以上を維持しており、上場企業のAwfis Space SolutionsやSmartworks Coworking Spacesを2024年度に上回ったことが、予備目論見書で明らかになっている。ナイトフランク・インディアのリサーチ統括責任者ヴィヴェーク・ラティによると、2024年3月期のTECインディアの総収入は前年同期比28%増の135億ルピー(約231億円。1ルピー=1.71円換算)となり、EBITDAは22%増の71億ルピー(約121億円)に達した。一方で、競争の激化の影響で純損失は8億600万ルピー(約13億8000万円)に拡大したという。それでもラティは「インドのフレキシブルオフィス市場は持続的な成長が見込まれる」と指摘する。

ゼージも楽観的だ。「TECには、非常に優良な大手顧客に支えられた“ビジネス開発の原動力”がある」と彼は語る。

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翻訳=上田裕資

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