マスクのスターリンクを猛追、成長する衛星通信市場で覇権を争う
この株価上昇は、スマートフォンに衛星通信を提供するという、まだ新しいが拡大中の市場に対する投資家の期待感を反映している。これが実現すれば、通信基地局の圏外でもインターネット接続が可能となる。この分野で最大のプレイヤーはイーロン・マスク率いるスペースXであり、同社のスターリンク衛星は現在、米国のTモバイル顧客向けに一部アプリ限定の通信サービスを提供している。スターリンクは9月、エコースターから重要な衛星通信帯域を取得するために170億ドル(約2.6兆円)を支出し、事業拡大の弾みをつけた。しかし、提携面ではASTのほうが先行している。
GSMAインテリジェンスの調査部門責任者ティム・ハットはフォーブスに対し、「ASTは、提携済みの携帯通信事業者との関係において、より大きな足場を築いている」と述べた。「ただし、実際にサービスを開始している数という点では、スターリンクのほうがASTを上回っている」とも指摘している。
スターリンクの50倍、巨大アンテナが技術的な強み
ハットは「ASTは衛星技術の面でも非常に強力だ」とも述べる。同社の衛星は、宇宙空間で展開される大型アンテナを搭載しており、そのサイズはスターリンクの約50倍に達する。これにより、テキスト通信にとどまらず、完全なブロードバンド通信を低コストで提供できるという。スペースXの次世代スターリンク衛星は性能の向上が見込まれているが、同社の新型ロケット、スターシップが稼働するまでは打ち上げられない。今年初めの複数回の試験飛行が爆発で終わったこともあり、スケジュールは大幅に遅れている。
2026年までに全世界をカバー、衛星60基体制の構築を目指す
現在、ASTは5基の衛星でサービスを提供しており、今後2カ月以内にさらに2基を打ち上げる予定である。同社は来年の第1四半期に少なくとも5回の打ち上げを予定しており、これによりカナダ、英国、日本でのサービスを開始できる見通しだ。同社は第2四半期の決算発表で、2025年後半に5000万〜7500万ドル(約76億円~114億円)の収益を見込んでいると述べた。アベランは、2026年末までに45〜60基の衛星を軌道上に配備し、全世界での通信接続を実現する計画だと説明している。
創業者兼CEOの原点、「約760万円と妊娠中の妻」だけを手に最初の会社を設立
アベランはシモン・ボリバル大学で工学を学んだ後、スウェーデンの通信大手エリクソンに勤務した。その後、2000年に「5万ドル(約760万円)と妊娠中の妻」だけを手に、アフリカや中東、さらにはクルーズ船や貨物船向けに衛星通信サービスを提供するエマージング・マーケッツ・コミュニケーションズを設立した。彼は同社を衛星企業グローバル・イーグルに売却した翌年にASTを設立した。
2019年に最初の実証衛星を打ち上げた後、ASTはボーダフォン、楽天、AT&T、そしてロンドンを拠点とするベンチャーキャピタルのシフト・ベンチャーズなどから1億1000万ドル(約167億円)の出資を受けた。2020年には、特別買収目的会社(SPAC)との合併により18億ドル(約2736億円)の評価額で上場を果たした。8日の発表後、ASTの株価は81.20ドル(約1万2342円)で取引を終え、その時価総額は290億ドル(約4.4兆円)に達した。


