ビジネス

2015.09.19

「戦略論」の正しい学び方

chaoss / Bigstock



自社のいる業界がどのような競争をしているのか。
そのことを知らずに、いたずらにビジネス書を読みあさってはいないだろうか。いま、CEOが知るべき正しい「戦略論」の学び方とは。


なぜ、日本の牛丼チェーン業界は3社寡占状態にもかかわらず、低価格競争をせざるをえないのだろうか―。

日本で「戦略論」を語る上で象徴的、かつ、わかりやすいのが牛丼業界だと思います。もちろん、企業間の競争原理が働くから当然だと言う方もいるでしょうが、そうとも限りません。

たとえば、コーラ業界も牛丼業界と同様の寡占構造ですが、低価格競争に陥ってはいません。5社寡占の米シリアル業界に関しては、各社ともROE(自己資本利益率)が平均40%と極めて高い収益性を何十年も安定して実現しています。

私の見解は、「自社のいる業界がどのような競争をしているのか」、つまり、これから説明する「競争の型」への理解が足りないがゆえに、戦略を見誤っている可能性があるというものです。

“戦う土俵”を間違え、“戦い方”がズレる。日本のCEOやビジネスパーソンが「戦略論」=戦い方を学ぶ上で理解していただきたい点がここにあるのです。

アメリカの経営学者ジェイ・バーニーが1986年に主要経営学術誌「アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー」に提示したのが「競争の型」の考えです。

バーニーは企業の競争の型には3つあると述べました。それを私なりに解釈すれば、経営者は自社のいる競争の型を俯瞰的に理解した上で、競争戦略を立てることが必要であるということです。

(中略)

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上記の図のように、競争の型によって有効な戦略は異なります。逆に言えば、すべての競争の型に有効な戦略はないため、自社の業界がどの競争の型にあるのかを正しく把握することが重要なのです。
とはいえ、自社業界の競争の型を見抜くのは簡単ではありません。

たとえば、グーグルとアップルは同じ型にいるように見えるかもしれませんが、実は違う競争の型にいます。現在のグーグルは典型的なIO型。グーグルはネットワーク外部性(利用者が増えるほど利便性が向上する現象)によってネット広告業界を自然に「独占」できるようになっているからです。

他方でアップルは、スマートフォン、パソコン分野などで差別化しながら競争している企業で、グーグルのようなネットワーク外部性による独占効果はありません。典型的なチェンバレン型の戦い方をしているのです。

「1・5列目」で競争優位を持続する

さらに、「競争の型」は、永続的に同じではありません。業界動向や会社の立ち位置によって変化します。
日本企業は、この競争の型の変化に対応することが苦手な印象を受けます。

たとえば、家電業界はもともとチェンバレン型の競争でしたが、グローバル化、コモディティ化などの変化により、競争の型が変容してきています。

中国市場やインド市場では、商品のコモディティ化が進んでいるために、ハイエンドの技術よりも比較的安価な商品をマス市場に売ったり、差別化のためにブランド認知を高めるべく広告費に巨費を投じる必要があります。

すなわちIO型の競争です。一方で、最近注目されているウェアラブル製品のようなイノベーティブな製品ではシュンペーター型の競争をしなければなりません。

つまり、チェンバレン型を中心に、一方ではIO型、もう一方ではシュンペーター型の競争という、3つの「競争の型」のすべてに対応せざるをえず、苦戦しているのが現在の日本の家電業界なのです。

では、どうすればいいのでしょうか。
私の提案は「二兎追い戦略」です。すでに述べたように競争の型を3つ抱えることは難しいのですが、2つなら不可能ではありません。


まず、IO型かチェンバレン型のどちらかに軸足を起きながら、加えてシュンペーター型の競争を行う、という考えです。現在は企業の競争優位が持続する期間が短くなり、不確実性が高まっています。

グーグルやアップルでも5年後も安泰かというと、そうとは限らない世界です。こうした状況下ではイノベーションにチャレンジしないと、いつかは競争優位を失うからです。

この「二兎追い戦略」でヒントになるのが「1・5列目」を狙うという考えです。イノベーションを起こすというと、どうしてもフロントランナーとしてマーケットを切り開く「1列目」をイメージしがちです。

しかし、既存企業がイノベーションを起こすより効果的な戦略は、そのやや後方から“芽”となる技術や製品、サービスに少額投資をたくさん行うという「1・5列目」でのチャレンジです。

「1・5列目」戦略は、実はイノベーティブに見える世界的な企業が採用しています。

端的な例が世界最大のコンピュータネットワーク機器開発会社である米シスコシステムズです。彼らはチェンバレン型で収益を得ながらも、常にベンチャー企業に投資してシュンペーター型の種をまいています。そこから芽が出た企業を毎年何十社も買収しています。

その他にも、グーグルは先に述べたようなIO型の戦いで安定収益を得ながら、ロボット事業におけるシャフト買収、AI(人工知能)事業、宇宙事業などのシュンペーター型競争の事業に投資しています。
両社は「1列目」を走るのではなく、「1・5列目」からフロントランナーを見ているのです。

「戦略論」の本質とは、まずその前提となる競争の型を理解し、それに合う戦略をとるということです。

そのために、まずは他の業種の競争の型も俯瞰的に眺めた上で、改めて自社の競争の型を理解し、戦略論を練り上げてみてはいかがでしょうか。

文 = 入山章栄 構成 =岸川貴文

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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