リーダーシップ

2025.10.16 08:00

退職したら経営戦略が止まる人材──中間管理職を「戦略的資産」として位置づけるべき理由

Shutterstock.com

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中間管理職は、組織における中間地点、つまり、「戦略」と「業務遂行」のあいだで板挟みになった、必要ではあるが面白みのない位置として扱われることが多い。中間管理職は、大胆なリーダーシップのビジョンや、重要な変革キャンペーンで主役になることはめったにない。だが、往々にして見過ごされがちな彼らの動きは、実は、組織が成功するか失速するかを静かに決定している。

上級幹部は方向を定める。最前線の従業員は仕事をこなす。そして、中間管理職はビジョンを動きに変える。戦略を日々の活動に翻訳し、刻々と変わる優先事項を解釈し、パフォーマンス、文化、ケアという対立する諸要求のあいだでバランスをとる。中間管理職の調整とエネルギーがなければ、最高の戦略でさえ、現実と衝突して崩壊してしまう。

にもかかわらず多くの組織では、中間管理層への投資が十分ではない。中間管理職を、中枢的なものではなく過渡的なものと見なしている。そして、中核的なリーダーシップ層としてではなく、将来の上級幹部になるための試験場として扱っている。

こうした判断の誤りが脆弱さを生む。中間管理職がやる気を失ったり過負荷になったりすると、業務遂行が減速し、トップダウンの変革の取り組みがつまずくことになる。

中間管理職に対する認識を改めたいのなら、リーダーはまずこんな問いを考えてみるといいだろう――わが社の中間管理職が突然明日退職したら、わが社の戦略はどれくらい長くもちこたえられるだろうか? 

この問いに対する正直な答えは、中間管理職が担っている、目に見えない重責のほどをありありと示している。

中間管理職が「文化的な要」である理由

中間管理職は、単なる経営上のパイプ役ではない。文化の翻訳者でもある。中間管理職は組織的な価値を解釈し、ローカルなチームのなかで、それに血肉を与える。

この役割は重要だ。なぜなら文化は、企業の経営方針から自然に下層へと流れていくものではないからだ。文化は、人が日々体験する行動から現出する。アルバート・バンデューラによる社会学習の研究では、人は自分に最も近い人の行動を模範にすることが示されている。たいていの従業員にとって、最も近い人は直属の上司だ。

中間管理職が組織の価値を体現していれば、文化が強化される。そうでない場合には、文化はばらばらになる。これは、トップダウンの文化的変革のイニシアチブがしばしば失敗する理由を説明している――日々の行動を実際にかたちづくる層が飛ばされているせいだ。

中間管理職は、組織の要求と従業員のウェルビーイングのあいだをとりもつ主要な緩衝役でもある。大胆な目標がやる気をかきたてるものなのか、負担がかかりすぎるものなのかを彼らが判断する。チームに認める自主性のレベルも、中間管理職がコントロールする。こうした自主性のレベルは、社員のやる気と維持に大きく影響する。Gallup(ギャラップ)の調査では、従業員が離職する理由は組織ではなく、上司にあることが一貫して示されている。

中間管理職が持つこうした文化的な役割をリーダーがサポートするには、中間管理職に対して管理のための時間とリソースだけでなく、チームを主導するための時間とリソースを与えることが必要だ。中間管理職のカレンダーから果てしない報告義務を取り除き、コーチとして対話する余地を与えれば、中間管理職の影響力に変革をもたらすことができる。業務上の指標に加えて人間関係面でのリーダーシップを認識し、それに報酬を与えることで、文化構築は片手間のものではなく、職務の一部であるという考え方が強化される。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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