人びとがオートメーション(自動化)を考えるとき、注目はたいてい、それが何を奪うかという点に向かう。機械が業務を引き継ぎ、仕事が消えていくという見方である。だが、今注目され始めたもう1つの側面がある。私が「リバース・オートメーション」(Reverse Automation)と呼ぶものだ。
この用語は物流の分野では返品処理の自動化を指して使われてきたが、本稿では、機械が不得手とする領域においてテクノロジーが新しい人間中心の仕事を生み出すことを意味する。
AIやテクノロジーが産業を変え続けるなかで、機械だけでは完結しないがゆえに存在する人間中心の仕事が新たな波として生まれている。これらは、触覚、信頼、判断、好奇心、創造性を要する仕事であり、テクノロジーが複製できない領域だ。どれほどスマートな機械でも、監督し、解釈し、トラブルシュートする人間を必要とする。高度な産業においてさえ、AIにできないことを担う熟練人材への需要は高まっている。リバース・オートメーションへの移行は、人間の価値がむしろ高まる可能性を示している。
リバース・オートメーションが勢いを増している理由
長年、テクノロジーが仕事を消し去るという予測は、人間がシステムより速く適応するという事実を見落としてきた。テクノロジーが反復的な作業を取り除くたびに、人々はそれを自分たちの利益に生かす方法を見いだしてきた。より多くの企業がAIを導入するにつれ、機械にできないことを管理する新たなタイプの人材が必要になる。そのため、これらのニーズを中心に、新しい形の訓練、教育、起業精神が求められている。
一流の教育機関でさえ、こうした職務要件に対応する新プログラムを導入し始めるだろう。ハーバード大学は最近、実践的でスキル重視の教育を含む、新しい形の職業・技術訓練の検討を発表した。ハーバードがブルーカラーや職能系の技能を教えるという発想は、数年前ならあり得ないように聞こえただろう。だが、現在の需要には適合している。
ハーバードの取り組みは、より大きな転換を象徴している。ホワイトカラーとブルーカラーの境界が薄れつつあるからだ。物理システムを理解するソフトウェアエンジニアは、データを理解する技術者と同じくらい価値がある。リバース・オートメーションは、この中間領域を受け入れる概念である。
今、どこでリバース・オートメーションを見られるか
この現象は、すでにさまざまな産業で目にすることができる。建設会社は自動化機器を使うが、出力と精度のバランスを理解する熟練オペレーターを必要としている。病院はAI診断に頼るが、結果を解釈し、患者対応を行う看護師や技師に依存している。製造ラインはロボットを使うが、センサーの校正、品質検査、安全維持を担う専門家も雇用している。いずれの役割も、自動化が機械単独では完結できないからこそ存在している。
サービス分野では、リバース・オートメーションの様相はやや異なる。顧客対応がチャットボットに移行しても、ボットが解決できない複雑な問題に対処する人間の専門家が依然として必要だ。AIがデータを分析しても、結論を導き、人間関係を管理し、顧客や従業員に影響する意思決定を行うのは人間である。リバース・オートメーションは、テクノロジーを脅威ではなく道具へと位置づけ直す。
起業のあり方も、これによって変化している。多くの新しい起業家が、テクノロジーでは完全自動化できない産業を中心に事業を構築している。HVAC(暖房・換気・空調)、清掃サービス、機器保守のような、かつて「退屈」と呼ばれた分野に、最新のソフトウェア、スマートな物流、強力なブランディングを持ち込んでいるのだ。これらの起業家は、見過ごされてきた市場をリバース・オートメーションで活性化している。



