「職」を求めて戦場に赴く低所得地域の男性
米シンクタンク大西洋評議会ユーラシアセンターのアンドルー・ダニエリ副所長は筆者の取材に対し、ロシア側で最大の犠牲となっているのは主に30代の男性だと指摘した。「ちょうど収入がピークを迎えようとする男性たちだ」とした上で、この年代の男性たちの中には、労働で対価を得る代わりに「コントラクトニク(訳注:ロシア語で「契約兵」の意)」としてウクライナに赴き、戦闘と死に対して政府から提示された巨額の報酬を選ぶ人たちがいるのだと説明した。
メディアゾーンとBBCが共同で実施した先述の調査によると、ウクライナ侵攻で死亡したロシア軍上級将校の数は約6000人に上る。うち12人は司令官だった。この調査では、30~39歳のロシア人男性が侵攻の影響を最も強く受けていることが明らかになった。
ウクライナへの侵攻を開始すると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、新たに契約した兵士に4970ドル(約75万円)の契約金を支払うとする大統領令に署名した。イルクーツク、オムスク、クラスノヤルスク、ケメロボなど、募集枠の穴埋めに苦戦している地方都市では、一部の新兵に追加のボーナスが支給された。このように、ロシア政府はウクライナでの戦闘に参加する新たな志願兵を募集する際、ボーナスを主な戦術として活用してきた。
ロシア政府は月額2500ドル(約38万円)の報酬を支払うとして、軍への入隊を奨励している。ロシアの平均月収は1273ドル(約19万円)であり、ウクライナで戦うロシア兵は国民平均のほぼ2倍の収入を得ていることになる。ロシア軍への入隊は、地方都市の若者たちにある種の雇用を保証するものでもある。戦死した場合、兵士の家族には15万8000ドル(約2400万円)の一時金が支給される。
戦争中のロシア軍への入隊には多くの危険が伴うものの、政府が提供する特典により志願者は増加しており、この戦略が効果を上げていることを示唆している。これはロシアが現在、ハイパーインフレを含む経済的な不確実性に直面しているためだ。
だが、先述のダニエリ副所長は連鎖的な影響を指摘する。「ロシアでは、経済活動に従事し、家族を支える熟練労働者や半熟練労働者が減少している。これは長期的に見ると、ロシア経済に深刻な下落圧力をかけることになる。戦争が続く限り、これらの問題が解決に向かうことはないだろう」。米カーネギー国際平和基金(CEIP)は、民間産業で労働力が不足していることから、ロシア国内の工場の稼働率がわずか81%にとどまっていると報告した。
ロシアの人口動態に影響を与えているのは、ウクライナ侵攻に伴うロシア軍の直接的な犠牲だけではない。移民も同国の人口減少を助長している。


