期限を逃して節約と評判維持につながった例も
期限に間に合わなかったからといって、失敗とみなす必要はない。問題を解決したり、発売日を見直したりするために延期することで、損を出すのを防ぎ、評判を守り、そして信頼を築けることを示した企業もある。アップルは2017年にワイヤレス充電機のAirPower(エアパワー)を発表したが、過熱の問題が明らかになり、その後開発を中止した。恥ずかしい事態ではあったが、この開発中止によってアップルは大規模なリコール(自主回収)や訴訟から逃れることができた。
トヨタは危機を経て品質を再チェックするために特定モデルの発売を遅らせ、評判と売上を守った。ジョンソン・エンド・ジョンソンは1982年に鎮痛剤のタイレノールをリコールし、不正開封防止の包装ができるまで販売を見合わせた。この措置は、社会的信用を守ることになったため、今でも歴史上最高の経営判断の1つとされている。スペースXでさえ、エンジニアが懸念を表明してロケット打ち上げを延期することがよくある。打ち上げが中止された場合に発生するコストは、失敗した場合のコストよりもはるかに少ないと理解しているからだ。探求心や疑問視する姿勢、そして遅らせる勇気を奨励することは弱さの表れではなく強さの表れなのだ。
沈黙がもたらす機会費用は膨大
ビジネスを行う上で期限は常につきものだが、それを守ることが常に最善の決断とは限らない。沈黙がもたらす機会費用は遅れによる不都合よりもはるかに大きいことがある。探求心を持つ文化を奨励し、思い込みに疑問を投げかけられる職場にしているリーダーは、どんなことがあってもスピードと納期を守ることを重要視する罠を避けられる。「私たちは何を見落としているのだろうか」と問うために立ち止まることは、その時は不快に感じるかもしれないが、長期的にはお金を節約し、評判を守り、より強力な業績をあげることができる。


