経営・戦略

2025.10.14 12:00

スピード優先・期限厳守は企業では大損失につながることも、過去8例を知る

Fokusiert / Getty Images

期限厳守のプレッシャーからの不正

フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正は無理のある期限設定から生まれた。技術者たちは経営陣が要求する期限までに自動車の排ガス基準を満たすことができないことを知っていたが、その事実を認めることは出世の妨げになると見なされていた。経営陣に異議を申し立てる代わりに、排ガステストをごまかすためのソフトウェアが作られた。それはスケジュールを守るための近道だったが、罰金、買い戻し、訴訟で何十億ドル(数千億円)もの損失を出した。300億ドル(約4.6兆円)以上が失われた。その金があればVWはもっと早く電気自動車(EV)市場をリードすることができたはずだ。透明性と新しい解決策への探求心を評価する文化があれば、VWは不誠実な企業の見本となるのではなく、競争で優位に立つことができたはずだ。

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発売を急いだあまりリコールに

サムスンはアップルのiPhoneよりも先にスマホを発売したかったため、Galaxy Note 7はわずかなミスも許されないタイトなスケジュールで出荷された。過熱と発火がほぼすぐに報告されたが、最初のリコールでは問題は解決されなかった。根本的な原因が完全に究明されていなかったため、交換した端末も発火した。そのときにはブランドへのダメージは取り返しがつかなくなっていた。リコールと失注で推定170億ドル(約2.6兆円)が失われた。発売を急いだことで、入念なテストを行い、欠陥を修正し、信頼を保つチャンスを逃してしまった。もしスピードよりも探求心が奨励されていれば、サムスンは世界中で製品の販売を停止するのではなく、好調な販売を維持できたかもしれない。

警鐘を無視し費用が超過

英国の高速鉄道HS2計画は同国の歴史上最も費用のかかるインフラプロジェクトの1つだ。費用は約300億ポンド(約6.1兆円。1ポンド=203円換算)から800億ポンド(約16.2兆円)超に膨れ上がった。ある内部告発者が非現実的な予算と予測について警鐘を鳴らしたが、上層部はプロジェクトを進めるために警告を却下した。もしそうした懸念に向き合うために立ち止まっていれば、費用の超過は抑えられたかもしれない。だがスケジュール通りに進めようとした結果、さらに大きな遅れが生じてしまった。金銭だけでなく、信頼性も失った。完成した路線に投入できたはずの数十億ポンド(数兆円)が無駄な計画と調整に費やされている。探求心を尊重し、内部の声に耳を傾ける文化があれば、プロジェクトを守るためにリソースを振り向けることができたはずだ。

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翻訳=溝口慈子

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