貧困地域を潤わせる「デスノミクス」
ロシアの軍事支出では、軍人の給与や死傷者の家族への補償金がかなりの割合を占める。米紙ワシントン・ポストによると、モスクワでは新規志願兵への契約一時金が最大2万8000ドル(約430万円)ほどにのぼり、月給はおよそ3200ドル(約49万円)からとなっている。さらに、前線に勤務したり、敵の装備品を鹵獲したりした場合にはボーナスも支給される。
亡命ロシア人研究者らによる調査プラットフォーム「Re: Russia」の最近の推計では、ロシアの2025年上半期のマンパワー(人的戦力)関連支出は過去最高の2兆ルーブル(約3兆8000億円)あまりに達した。これは連邦支出全体の10%近くにあたる。
ロシアの経済学者ウラジスラフ・イノゼムツェフは、こうしたダイナミズムを「デスノミクス(死の経済)」と呼んでいる。彼によるとロシアの最貧地域では、1年間戦って戦死した人が、生きていた場合に生涯に稼いでいた総収入を上回る最大15万ドル(約2300万円)ほどを遺族に残すことがあるという。同時に、この戦時経済は、軍人への給与や死亡補償金、軍需工場での高騰を通じてロシアの工場地帯などで新たな中間層を生み出している。多くの人にとって平和は貧困への逆戻りを意味するため、戦争の継続を望むいびつな動機が生まれてしまっている。
「わたしたちはマンパワーでロシアに対抗することはできません」とウクライナのオレクサンドラ・ウスチノバ最高会議(議会)議員は筆者のインタビューで語った。
代わりにウクライナが学んだのは、ロシアが人命よりも収入を重視しているということだ。だからこそウクライナは長距離ドローンにリソースをつぎ込み、クレムリンの戦費を支える製油所などのエネルギーインフラを攻撃しているのだ。
メチニコウ記念オデーサ国立大学国際研究センターのボロディミル・ドゥボビク所長も「ウクライナは徐々に抑止力を構築しています。これは将来も必要になるものです」と筆者に話した。


