キャリア・教育

2025.10.13 13:00

AI時代のビジネスには、博士課程の基本スキルが必要だ──常に仮説と検証を繰り返す

Photo illustration by Li Hongbo/VCG via Getty Images

2. ウェブ上にある財務データを適切に比較する能力が、今後はさらに重要になる

「機能的固着(Functional fixation)」とは、もとは心理学の用語だ。投資の世界では、投資家が、得た情報を深く分析したり理解したりすることなく、額面通りに受け取ってしまう現象を指す。AIが広く受け入れられるなかで、こうした事象が増えることが見込まれる。

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例えば、ホームデポと同業のLowe's(ロウズ)について、売り上げの伸びを比較するとしよう。GPT-5を使えば、即座に求める数値を得られるはずだ。

だが、この数字を表面的にしか理解していないユーザーが知らない事実がある。それは、ロウズの決算発表が暦年ベースであるのに対して、ホームデポの決算締め日は1月31日だということだ。この数字では、既存店売上高の算出方法に関する規制当局からの指導や、両社の数字にそれぞれ異なる想定が反映されている可能性が考慮されていない。

3. 専門知識の重要性は今後も変わらない

インターンや、キャリアの最初の数年、見習い的存在として経験を積むことには、下積み的なハードワークが伴いがちだ。しかしこうした仕事を通して、会社や業界固有の文脈において状況把握(センスメイキング)を行う能力を身に付けられる。

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それは例えば、一見無関係な要素の間につながりを見いだす能力。公開されているデータが正確かどうか、欠けているものがないかを検討する能力。さらには、何か様子がおかしい時に発動される、危険を察知する能力といったものだ。 

これに関しては、やや些細なことにも思える実例をご紹介しよう。筆者は、スターバックスの賃金をモデル化しようとしていた。GPT-5は、バリスタ、スーパーバイザーといった職能別の賃金単価の平均値を探し当てるタスクに関しては、非常に有能だった。平均値は、おおよそ1時間あたり18ドルだった。

だが、ここで重要になるのが、情報源の検証だ。なぜなら、GPT-5が提示してきたのは、従業員が受け取っていると証言する賃金の額だったからだ。だが筆者はむしろ、賃金総額のうち、雇用主が負担する部分に関心があった。雇用主である企業が負担する福利厚生費用を含めるならば、GPT-5がいう時給18ドルに、少なくとも30%が追加されるべきだ。

筆者は、過去にサステナビリティに関する報告書に関わった経験があるため、分析対象とする企業すべてについて、こうした報告書に目を通すことにしている。その結果、こうした報告書の何の差し障りもなく見える記述から、米国の従業員に対する報酬は、平均して1時間あたり30ドルに達することが判明した。

筆者は、サステナビリティ関連の分野に多少なりとも関わっていて、従業員が受け取る賃金とは別に雇用主が負担するコストが存在することを知っていたからよかったが、そうでなければ、賃金総額を40%少なく見積もっていたことになる。

未来の世代と「危険を察知する能力」

全般的にいうと、未来の世代が、このような「危険を察知する能力」を養うのが難しくなるのではないか、と筆者は懸念している。特に、投資銀行やコンサルティング会社で初級管理職(エントリーレベル・マネージャー)が担っていた仕事が消え去ってしまう状況では、こうした能力は養われなくなるだろう(AIツールが台頭するなかでは十分あり得る未来だ)。

こうした初級管理職は概して、実態よりもよく見えるデータを集めたり、PowerPointを駆使したり、DCF(discounted cash flow)に関するスプレッドシートを操ったりすることが仕事になってきた。だが、こうしたレベルの管理職が手がける仕事の90%かそれ以上は、GPT-5で代替できるはずだ。

次ページ > 4. 将来の「知的財産(IP)」は、AIへのプロンプトや問いかけ

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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