キャリア・教育

2025.10.13 13:00

AI時代のビジネスには、博士課程の基本スキルが必要だ──常に仮説と検証を繰り返す

Photo illustration by Li Hongbo/VCG via Getty Images

1. AIは、ウェブから2次情報を収集するのには非常に有用

まずはこの点について、詳しく説明しよう。筆者の体験によればGPT-5は、少なくとも企業財務の分析という用途に関しては、ウェブから2次情報を探し出し、収集し、整理することについては非常に有能だ。

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AIツールは、「補間(interpolating:既存データの間に新しいデータ点を挿入すること)」に関してとても能力が高い。筆者が問いを投げかけると、過去に誰かが取り組み、デジタルフットプリントを残した事柄から、一般的な財務比率をはじき出したり、よくある質問に対する回答を見つけたりすることができる。

一方でAIツールは、外挿(extrapolation:既存データの範囲外にある値を推測すること)にはそれほど向いていない。つまり、「明確な形で入手可能で、すでに他の人たちが実行済みの事柄」という範囲を超えた推測は難しいということだ。

ChatGPTが出した答えは、合格点ではあるが高いレベルには達していない

例えば、財務分析の基本ステップの1つとして、分析対象とする企業の本業である営業分野と、金融(ファイナンス)分野を分けて比率を計算する、というものがある。

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金融業以外、企業の本業にあたる営業活動から得られた1株あたり利益(EPS)の1ドルは、ファイナンスによって得られた利益の1ドルよりも高いバリュエーション・マルチプル(企業価値評価係数)が与えられてしかるべきだというのは、直観的にわかるはずだ。

それはつまり、スターバックスが基幹事業であるコーヒーの販売で稼いだ1ドルは、同社がパッシブな金融商品で得たリターンにおける1ドルと比べて、繰り返し得られる可能性が高いだけでなく、経営陣の判断によって築かれた、堅固な参入障壁によって守られやすいと考えられるからだ。

そこでGPT-5に対して、スターバックスのROE(株主資本利益率)を、営業部門と金融部門に分けて分析するよう命じたところ、返ってきた答えは、一見もっともらしいものの、「純金融資産(net financial assets)は、長期負債から現金保有額を差し引いたものとして定義するのが最も適切だ」という点を本当には理解していないものだった。また、支払利息は、受取利息やその他の金融上の損益と、税引後のベースで相殺されるべきであるということも、ChatGPTはわかっていないようだ。これはなぜだろうか? 

それは、GPT-5のトレーニングに用いられている、ウェブ上に掲載されている財務分析では、筆者が指示したように、営業活動と金融活動を分離して分析してはいないことが一般的だからだ。

もちろん、GPT-5に具体的に指示を出して、こちらが思う通りにデータを扱ってもらうことはできる。だが、そこは肝心な点ではない。ウェブ上で他の人々が頼りにしてきた、2次情報を用いる方法でユーザーが満足しているというなら話は別だが、シビアに見れば、ChatGPTが出した答えは、合格点ではあるが高いレベルには達していない。

GPT-5は外挿に難点がある

もう1つ例を挙げよう。筆者はGPT-5に、医療保険の積立不足額が最も多い企業を挙げるように指示した。するとGPT-5は、2005年12月付のリポートを参照してきた。どうやら、これより新しいデータをまとめた人が、ウェブ上では見つからなかったようだ。

GPT-5には外挿に難点があることを示すため、筆者は、ホームデポの「Form 10-K」(米国証券取引委員会[SEC]に提出される年次報告書)で用いられているROIC(投下資本利益率)が、CEOの報酬を決める際に用いられているROICと異なるのはなぜか? と尋ねた。すると返ってきたのは、回りくどく内容のない回答だった。これもおそらく、これまでに誰も同じような質問をしていなかったからだろう。

データが入手可能で、ユーザーが何を尋ねるべきかを心得ているなら、GPT-5は優秀

もちろんGPT-5は、ウェブから関連度の高いデータを集めてくることにかけてはとても優秀だ。しかしこれは、そうしたデータが入手可能で、ユーザーが何を尋ねるべきかを心得ている場合に限られる。

別のケースで筆者は、石油大手のExxon(エクソン)とChevron(シェブロン)について、従業員からの評判の比較や、さまざまな法執行機関から受けた規制に関する処分の履歴をまとめる作業を自動化しようと考えたことがあった。方向性を絞り込んだプロンプトを用いたところ、GPT-5は必要とするデータをたったの5分で返してくれた。このタスクに筆者自身が取り組んでいたなら、少なくとも2時間はかかっていたはずだ。

次ページ > 2. ウェブ上にある財務データを適切に比較する能力が、今後はさらに重要になる

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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