ハコクラゲは、よく見ないと見逃してしまうかもしれない。水中を漂う触手はおぼろげにしか見えず、立方体の体はガラスのように透明だ。
間近で見ると、その傘はかなり繊細で、箱型のパラシュートのように見える。傘の直径は数cm程度だが、広がると最大30cmにもなる。そして箱型の傘の角からは、最大3mにも及ぶ細長い触手が伸びている。
この目立たないクラゲのグループは、オーストラリアウンバチクラゲ、イルカンジクラゲなどの51種から成り、いずれもオーストラリア北部と東南アジアのインド太平洋の浅瀬に生息している。しかし、この海域を泳ぐ人たちは、ハコクラゲの進路を横切る行為がどれほど危険かをほとんど知らない。
外見からは想像できないかもしれないが、彼らは最も危険な海の生き物なのだ。
なぜハコクラゲがそれほど危険なのか
誰に聞いても、海の最大の脅威はサメだと答えるだろう。ホホジロザメか、あるいはイタチザメかもしれない。しかし、サメによる襲撃は年間50人未満であり、そのうち死亡するのは5~6人ほどだ。一方、ハコクラゲは年間約100人の死者を出している。
このクラゲが最も危険な海の生物として名高いのは、主に2つの進化上の利点による。1つ目は、ほぼ完全に見えないことだ。
最も穏やかで透明な水域でさえ、ハコクラゲの傘はあまりに透明で、見つけるのが難しい。さらに、細長い糸状の触手も、ほとんど影をつくらない。傘と触手の透明性だけで、ハコクラゲは非常に危険な存在だ。海水浴客は、刺されるまで気付かないまま、クラゲからほんのわずかな距離で泳いでいることもある。
体が透明なため、ほとんど気付かれないということだけでも危険だが、ハコクラゲが致命的な理由はその毒にある。『BMC Genomics』誌に発表された2015年の研究が説明しているように、触手の一つ一つに、何千もの「刺胞」と呼ばれる複雑で微小な細胞内小器官が備わっている。これらの刺胞は、接触があると爆発的な速さで銛(もり)のような管(毒針)を発射し、相手の皮膚に突き刺す。
管が刺さると、瞬時に毒が注入される。2015年の研究が指摘しているように、この毒は極めて洗練された生化学兵器だ。ほかのクラゲに刺されても、ほとんどの場合、皮膚に刺激を感じる程度で済むのとは対照的だ。ハコクラゲの中で最も致死性の高いオーストラリアウンバチクラゲに刺されると、以下のような恐ろしい症状を引き起こすことで知られている。
・炎症:毒を注入された直後から、焼けるような痛みと皮膚の腫れが始まる
・壊死:刺された部位の皮膚が壊死することもあり、通常は永久的な瘢痕(はんこん)を残す
・呼吸困難:毒が入り込むと、息が苦しくなる
・高血圧/低血圧:血圧が危険なほど急上昇または急降下することがある
・心血管虚脱:極端な場合、毒は心臓の正常な働きを妨げる。これにより全身の機能不全を引き起こす可能性があり、最悪の場合、心停止に至ることもある
ハコクラゲの獲物である小魚の場合、その毒の効果は即座に現れる。人間の場合は、触手に数m接触すると、耐え難いほどの激痛が走り、これが致命傷となることもある。生存者はしばしば、あまりに強烈な痛みで、動くことさえほぼ不可能になると語る。



