2021年にサンパウロで結成された黒人男性12人による集団ヴィラニスモ(Vilanismo)は、自らをあえて「ヴィラン(悪党)」と呼び、否定されてきた知性や感情を可視化する。彼らは黒人男性性に付随するスティグマや非人間化の歴史に抗い、祖先の知恵やアフリカ系ルーツを重視した共創的な取り組みを展開する。ビエンナーレではアトリエのような空間を構築し、その世界観を提示した。
資源搾取や消費社会の矛盾を問う作品も目立った。ジンバブエ出身のモファット・タカディワ(Moffat Takadiwa)は廃棄プラスチック部品でノアの箱舟を制作。パソコンのキートップ、容器のフタ、歯ブラシの毛など、あり触れた日用品を丁寧に分類し、芸術素材へと再生。鑑賞者がトンネル状の作品をくぐる体験を通じ、使い捨て消費社会の資源価値を問い直す。
マルレーネ・アルメイダ(Marlene Almeida)は、過去55年間ブラジルの土壌研究に従事し、環境破壊の問題に取り組んできた活動家。色調の異なる土の色素を塗ったキャンバスの帯を天井から吊り下げた『Terra viva(生きた大地)』と、土壌サンプル、植物樹脂、鉱物、実験器具、フィールドノートなどで構成される『Museu das Terras Brasileiras(ブラジルの土壌博物館)』を展示した。
ジャマイカ系アメリカ人のナリ・ウォード(Nari Ward)は、廃マットレスのバネ、スピーカー、映像を組み合わせ、コーヒーを媒介にブラジル・ジャマイカ・日本を結ぶインスタレーションを構築。コーヒーという嗜好品が、植民地主義や労働搾取といった「負の歴史」と、生産量のほとんどが日本へ輸出されるブルーマウンテンに代表される「贅沢の象徴」を同時に孕んでいるという事実を可視化したものだ。
脱植民地主義や、周縁化された人々の尊厳の回復といった意識を持って活動するジェ・ヴィアナ(Gê Viana)は、写真やスピーカーを組み合わせた立体コラージュに音を組み込んだ。黒人や先住民コミュニティにとって音楽は単なる娯楽ではなく、服従を拒んできた歴史の記録でもある。だが彼女の作品は過去だけではなく、アフロフューチャリズム的な未来と創造のエネルギーを提示する。
「来場者にはエネルギーを感じ、余韻を持ち帰ってほしい」と語ったキュレーターのソウザ。ここで紹介したアーティストたちは、それぞれの課題意識を起点に、感覚へ訴える創造的アクティビズムを実践し、その作品は強いエネルギーを放っていた。
現代アートが示す「美」の多様性とその意義
ソウザはこの展覧会を「Flamboyant」、すなわち華やかで堂々としたものだと語る。ボーダーレスに活躍するアーティストたちの作品は、個人的な体験や切実な社会課題を掘り下げ、素材を記録し、積み重ね、編み、削り出すといった緻密なプロセスを経て形を与えられている。そこから立ち上がる「美」は、単に目や耳を楽しませるためのものではない。歴史の記憶や社会の矛盾を映し出し、感性だけでなく思考や行動を揺さぶる力を持つ。
戦争や気候危機、移民、AIがもたらす変化など、世界があらゆる課題と複雑さに直面するいま、現代アートが生み出す多様な美は、歴史を掘り下げ、この時代をどう生き抜くかを考えるための視点や手がかりを提示する。サンパウロ・ビエンナーレでは、ブラジルが抱える複雑性、キュレーションチームによる大胆な企画構成が重なり合い、現代アートの意義がより鮮明に、説得力をもって浮かび上がった。
後編では、ビエンナーレにおける展示設計の特徴やブラジルの芸術文化施設(SESC)の事例に触れ、アートの公共性や社会インフラとしての重要性を考える。


