コンセプトと空間設計には「エスチュアリー(河口)」という比喩が用いられた。海水と淡水が交わり、多様な塩分濃度から豊かな生物多様性が育まれる河口では、あらゆる種が役割と居場所を持ち、相互に依存しながら共存する。このイメージを人間どうしのつながりや自然との共生の在り方といった人類の根本的な問いに重ね合わせた。
舞台となる会場も、この比喩と呼応する。オスカー・ニーマイヤーが設計したモダニズム建築の内部には壁がなく、吹き抜けと各階をつなぐ曲線的なスロープが、まるで水の中を歩いているかのような空間をつくり出す。その空間の中に大規模な立体インスタレーション、サウンド、映像が響き合い、交差し、人間の営みの豊かさや美しさだけでなく、複雑さ、矛盾、混沌までもが表現されている。
「淡水と海水が交わり、多様な命を育む河口のように、この場所は人々が交差する場です。歩くたびに光や色が移ろい、異なる体験が生まれる」とキュレーターのソウザ。壁や仕切りを極力避け、吹き抜けを活かした垂直性と格子状の構成を意識したと語った。「フランク・ボーリングの作品が並ぶピンクの壁や、オトボン・ンカンガのタペストリーが縦に空間を貫くことで、人類の物語が立ち上がるのです」。
「海のつながり」から理解する世界
オトボン・ンカンガ(Otobong Nkanga)は、現在ベルギーを拠点に活動するナイジェリア出身の芸術家。ビジュアルアート、タペストリー、パフォーミングアートなど多様な表現方法を通じて、天然資源が形成する経済・政治・文化的な関係を探求する。
サンパウロ・ビエンナーレで展示された『Unearthed (発掘、2021)』は、深淵から陽が注ぐ地上までのつながりを表現した縦に伸びる一つの原画から生み出されたもので、幅6メートル、高さ3.5メートルの大きなタペストリー4点で構成される。
作品は大地を支える水面下の世界を詩的な表現で可視化し、人間と環境をつなぐ「発掘の物語」を紡ぐ。タペストリーの風景の中には海洋生態系だけでなく、抽象化された残骸のような人間の身体が織り込まれている。これらは世界をつなぐ「思考のかたち」を映し出し、歴史、経済、生態系の関係性についての思考を喚起する。


