経営・戦略

2025.10.11 12:00

AMDとOpenAIの巨額契約を引き寄せた「AIソフトウェア」の存在

CFOTO/Future Publishing via Getty Images

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半導体大手AMD(アドバンスド・マイクロ・デバイセズ)のAI部門上級副社長ヴァスミ・ボッパナが、ソフトウェア開発の進捗状況をリサ・スーCEOに報告すると、彼女の返答はいつも同じだという。

「素晴らしい。もっとスピードを上げましょう」。

半導体企業がソフトウェアにこれほどの重点を置くのは珍しいように見えるかもしれない。しかし、それこそがAI業界を支える高性能チップの力を引き出す鍵である。ソフトウェアは半導体の性能を最大化し、機能を最適化する。エンジニアがハードウェアを操作し、プログラムを組むためにも不可欠だ。さらに重要なのは、その「粘着性」である。一度、企業のエンジニアがあるチップメーカーのソフトウェアプラットフォームを学ぶと、他社のものに乗り換えるのは容易ではなくなる。

ボッパナによれば、ソフトウェアこそが、50年以上のAMDの歴史の中でも最大級の勝利、すなわち、ChatGPTを開発するOpenAIとの数十億ドル規模の契約をもたらした要因のひとつだという。この契約では、OpenAIがAMDのMI450チップを使用して合計6ギガワットの計算能力を獲得する。この契約の一環として、OpenAIはAMDの株式を最大1億6000万株(発行済み株式の10%に相当)まで取得する可能性がある。この提携は、半導体市場の首位を走るエヌビディアに追いつこうとするAMDにとって極めて大きな追い風だ。

この契約の基盤が築かれたのは2023年にさかのぼる。当時、OpenAIは初めてAMDのハードウェア上で一部のAIモデルを稼働させていた。その後の数年間で、AMDはAI分野の巨人であるOpenAIの助言を受けながら、次世代MI450チップの設計を進めたという。さらにOpenAIはAMDのソフトウェア面にも影響を与えたと、ボッパナはフォーブスに語った。

「OpenAIとの関係が深まるにつれ、我々はスタック全体にわたって協力を拡大してきた。特にソフトウェア面でだ」とボッパナは説明する。たとえばAMDは、OpenAIが開発したGPUプログラミング用オープンソース言語のTritonをAMDチップでも動作可能にするため、OpenAIと協力した(それまではエヌビディア製GPUにしか対応していなかった)。

AMDとOpenAIの契約は、計算能力への需要がほとんど飽和状態にある中で結ばれた。今年初め、ドナルド・トランプ米大統領、OpenAI、オラクル、ソフトバンクは、米国のデータセンターおよびAIインフラに対する総額5000億ドル(約76兆円)の投資計画「プロジェクト・スターゲート」を発表した。その数週間後には、アップルも同額の5000億ドル(約76兆円)の投資を表明した。

AIブームによって、かつてはゲーム用チップメーカーとして知られていたエヌビディアは、時価総額4兆5000億ドル(約688兆円)の巨大企業へと変貌した。9月末には、OpenAIがエヌビディアと1000億ドル(約15兆2900億円)規模の契約を結び、10ギガワットの計算能力を確保した。一方で、セレブラス、サンバノバ、グロック、d-マトリックスといった新興半導体スタートアップも登場し、従来型とは異なる、AIワークロードに特化した半導体の開発を進めている。

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翻訳=江津拓哉

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