d-マトリックスのシド・シェスCEOは、ここ数年のAIサービスの爆発的な成長を背景に、計算能力の市場が「勝者総取り」にはならないと語る。「この市場はあまりに巨大であり、OpenAIがエヌビディアとしか組まないなんてありえない」と彼はフォーブスに語った。「顧客たちはいま、AMDのソフトウェアを使いこなすために必要なプロセスを学ぶ気になっている」。
エヌビディアにとってソフトウェアは、長年にわたり市場の支配力を維持するための強力な武器と見なされてきた。たとえばエヌビディアのプログラミングモデルであるCUDAは、AIモデルの訓練における強固な参入障壁を築いている。しかし、AIモデルの実行に必要な“推論”段階では、この障壁は低くなる。なぜなら訓練ほど複雑な計算を要しないためだ。OpenAIは、その推論用にAMDのチップを利用する予定なのだ。
「この分野での参入障壁はそれほど大きくない」とシェスは言う。「痛みのしきい値は時間とともに下がっている」。
ボッパナによれば、AI業界の進化スピードそのものが新たなチャンスを生み出しているという。「もし世界が静的で進化しておらず、古いアーキテクチャのソフトウェアだけが残っていたなら、確かに大きな壁があっただろう」と彼は語る。「だがAIの世界では革新のスピードがあまりに速く、チップを動かすためのソフトウェアがどんどん使いやすくなっている。将来的には、ソフトウェアの差異はますます重要性を失っていくと思う」。
OpenAIとの契約により、AMDは2014年当時からは考えられないほどの位置にまで到達した。リサ・スーがCEOに就任した当時、AMDは経営危機に瀕しており、全従業員の4分の1を削減せざるを得なかった。株価はわずか2ドル前後だった(現在の株価は235ドルを超え、時価総額は約58兆円に到達している)。モバイル市場には乗り遅れ、PC向けの販売も低迷していた。スーの使命は、グーグルやアマゾンといったハイパースケーラーからデータセンター事業を獲得し、企業を立て直すことだった。そして今、彼女の目標は次の技術革命であるAIの波において真の主役になることだ。
スーは、「AMDには次の段階があると思っている」と2023年に実施したフォーブスのインタビューで語っている。「私たちは優れた企業であることを証明する必要があった。それはもう成し遂げたと思う。次は、偉大であること、そして世界に長く残る価値を生み出す存在であることを証明する。それが私にとって次の挑戦だ」。
もしすべてが順調に進めば、OpenAIとの巨額契約をきっかけに、AMDが将来的にさらに多くの契約を獲得する可能性もある。そしてOpenAIにとって頼れるパートナーとなることが、AMDの新たな成長フェーズの始まりとなるかもしれない。


