中国四川省の奥地に位置するこの構造物は、世界中のどのダムよりも高くそびえ立っている。錦屏第一ダム(じんぴん・だいいちダム)は高さ305メートルに達し、エッフェル塔をも上回る。その姿は単なるコンクリートの壁ではなく、ヤーロン川に向かってしなるダブルカーブアーチ型という精緻な設計がなされた工学的構造物である。
建設は2005年に始まり、2013年には最初の発電ユニットが稼働を開始した。それ以来、このダムは中国の「西電東送」プロジェクト、すなわち資源豊富な西部地域から電力需要の高い東部への大規模な電力供給計画における重要拠点となっている。ダムには600メガワット級の巨大タービンが6基設置されており、年間160億キロワット時を超える電力を生み出している。これは数百万世帯および産業の電力需要を賄うに十分な量である。
背後にある貯水池もまた巨大で、その面積は80平方キロメートルを超え、貯水容量は77.6億立方メートルに達する。そのうち約50億立方メートルが発電および洪水調整に利用可能である。この規模を実現するために、技術者たちは非常に難解な地質条件に対応しなければならなかった。ダムは険しく不安定な岩盤に挟まれており、あらゆる荷重と応力のポイントが精密に計算された。また、安全対策として表面越流路や底部排出口、さらには下流の錦屏第二発電所へと通じる導流トンネルなど、複数の洪水調整機能も備えられている。
無論、このような巨大プロジェクトには代償も伴う。貯水池建設のために約7000人がたちのきを余儀なくされ、貯水開始時には300回を超える小規模な地震が発生した。これは、大規模インフラが環境に与える影響の大きさを示すものである。
現在のところ、錦屏第一ダムが世界一の高さを誇っているが、近隣ではさらに高いダム「双江口ダム」が建設中である。完成すればその高さは315メートルに達し、錦屏第一ダムを10メートル上回ることになる見込みである。
それまでは、錦屏第一ダムが世界最高のダムであり続ける。巨大さ、精密な設計、そして野心に満ちたその姿は、ダム建設技術がいかに進化したかを示す現代の工学的偉業である。
※本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」9月10日の記事からの翻訳転載である



