顧客エンゲージメント基盤を提供する米Braze(ブレイズ)が、年次イベント「Forge(フォージ)」を開催した。このイベントで同社は、行動データにもとづきメール・SMS・プッシュ通知の内容と送信タイミングを自動最適化する人工知能(AI)エージェント群を発表した。時期を同じくしてOpenAI、Anthropic(アンソロピック)、Adobe、HubSpot(ハブスポット)もAIエージェント機能やSDK(開発キット)を拡充し、マーケティングとAIの統合は実装段階へ入った。ここで前提となるのが、米国の慣行だ。大量配信とパーソナライズが標準運用で、まず企業が配信し、不要なら受け手がメールの配信停止やアプリ/OSの通知オフで止めるという「オプトアウト前提」が一般的だ。
そして問題はここからだ。マーケティングにおける自動最適化は、受け手にとって本当に関連性の高い体験を生み、不要な配信を減らすのか。それとも追跡と心理誘導を強め、「自分の行動や属性が過度に追跡・推測され、勝手に使われている」と感じさせ、配信停止やブロックに踏み切らせるのか。AIエージェントの成否を左右するのは、配信ガバナンス(ガードレール・承認フロー)、受け手側コントロールの実効性、コスト面だ。
Braze、OpenAI、Anthropicなど大手が開発を加速、AIエージェントは実装段階へ
先週開催のForgeカンファレンスにおいて、米Brazeは、ブランドと顧客との関わり方を一変させることを狙った一連のAIとプラットフォームの大型アップデートを発表した。その中心にあるのがテラバイト単位のデータを分析し、キャンペーンを最適化し、マーケターの代わりにコンテンツを作成する自律型システムの「AIエージェント」だ。
今や、あらゆる企業がAIエージェントを作っている。OpenAIは最近、ChatGPTにエージェント機能を追加し、開発者イベント「DevDay」でエージェント構築ツールを発表した。競合のAnthropicも、同社の大規模言語モデルClaude(クロード)向けに「Agent SDK」を発表したばかりだ。音声AIスタートアップのEleven Labs(イレブン・ラボ)も同様にエージェント開発の取り組みを明らかにしている。
セールスフォースによると、カスタマーサービス分野でのAIエージェントの利用は今年だけで22倍に増加したとのことで、同社自身もエージェントを開発・提供している。マーケティングソフトのHubSpotは、15種類のエージェントを新たに投入。マーケター向けに多数のツールを提供するアドビも、それを上回る数のエージェントを発表している。こうした企業は、AIエージェント開発競争に参入している企業群のほんの一部にすぎない。
Brazeが目指すのは、映画『マトリックス・リローデッド』で描かれたエージェント・スミスのような、専属の知的で自律的なAIエージェントをすべてのマーケターに与え、「超人的な力」を手に入れたかのようにすることだ。
顧客を呼び戻す「ウィンバック」やカゴ放棄対策を自動化など用途が具体化
たとえば、離脱した顧客を呼び戻す「ウィンバック・エージェント」や、カートに入れた商品を購入しなかった人に再び促す「カート放棄対策エージェント」、過去の購買履歴から次に買いそうな商品を予測する「次回購入予測エージェント」、そしてもちろん、カスタマーサービスやサポート対応のエージェントなど、ブランドが思いつくあらゆる種類のAIエージェントが誕生しようとしている。これらは、メールを書き、プッシュ通知を送り、軽いトーンのSMSやWhatsAppメッセージを送るといったタスクを自動でこなす存在だ。
あなたに「もっと買わせること」
かつて私たちは「それにはアプリがある」と言って、あらゆるニーズにアプリが存在する時代を語っていた。現在、その言葉はこう言い換えられようとしている──「それにはエージェントがある」と。
私たちは、ブランドから消費者へのコミュニケーションの大半が、単なる自動化ではなく、AIエージェントによって賢く最適化され、個別にカスタマイズされ、1人ひとりにパーソナライズされる世界へと急速に向かっている。その目的は、あなたが「欲しいものを手に入れやすくする」こと──あるいは、「もっと買わせること」かもしれない。



