経営・戦略

2025.11.11 14:45

三流リーダーは部下同士を競わせ、二流はやる気にさせる。ならば一流は?

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”火の粉”をかぶる覚悟が経営者にあるか?

それに、従業員のことを信用することができずに、彼らのやることに難癖をつけているようでは、モチベーションを上げてくれるわけがありません。

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人間というものは、「自主性」「自発性」を尊重されたときに、自分のやっている仕事に対する「誇り」や「責任」をもつのです。だから、経営者(リーダー)は、一人ひとりの能力・適性を見極めたうえで、それぞれにふさわしい仕事を思い切って任せたほうがいい。

もちろん、彼らが困ったときにはサポートできるように見守ったり、万一失敗したときには全力でフォローしたり、自らが”火の粉”をかぶるのが大前提ですが、彼らのやることにいちいち手出し口出しをするのではなく、「従業員を信じて、仕事を任せる」という勇気をもたなければいけないと思うのです。

問われているのは「経営者のありよう」である

つまり、ここで問われているのは「経営者のありよう」だということです。

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経営者自らが、「仕事」に本気で思いを込めているか? 

本気で従業員を信じて、仕事を任せられているか? 

いざというときに”火の粉”をかぶる覚悟はあるか? 

経営者がこうした姿勢を堅持できているときに初めて、従業員の内面に「この仕事には値打ちがある!」「この仕事をなんとしても成功させたい!」という思いが芽生えるのだと思うのです。

だから、私はこう考えています。

従業員のモチベーションを高めようと思うならば、従業員に何かを働きかける前に、まず経営者自身が、「自らのありよう」をしっかりと見つめ直したほうがいい、と。

このプロセスを踏まないまま、従業員の心の中に手を突っ込むようなことをしても、まずうまくいくことはないでしょう。いや、場合によっては、たいへん危機的な状況にすら陥りかねないと思います。

「臆病な目」で自分自身を振り返る

想像してみてください。経営者が、黒字化のために経費削減ばかり押し付けるうえに、現場を事細かに管理していちいち難癖をつけていたら、誰だって嫌気がさすでしょうし、職場の生産性が上がるはずもないでしょう。

そのような状況のなか、業績が上がらないことに業を煮やした経営者が、従業員のモチベーションを上げることを目的に、「競争原理」や「インセンティブ・システム」を導入したら、何が起きるでしょうか? 言うまでもなく、従業員は白けるばかりで、殺伐とした雰囲気すら生まれかねないでしょう。

まさに悪循環。実に恐ろしいことだと思います。このような過ちを犯す最大の要因は、従業員のモチベーション低下を「従業員の問題」と決めつけていることにあると私は思います。だからこそ、「競争原理」や「インセンティブ・システム」などで、従業員の意識や行動を変えようと試みるのです。

しかし、そもそも経営者のスタンスが間違っていれば、そうしたすべての試みは「逆効果」に終わる運命にあります。

だから、従業員のモチベーションを上げたいと願うのならば、従業員に何かを押し付ける前に、経営者自身が、「自分は仕事(事業)に本当に思いを込められているか?」「自分は従業員を信じているだろうか?」と臆病な目で見つめ直したほうがいい。それこそが、従業員のモチベーションを上げるために、絶対に欠かせない第一歩だと思うのです。

つまり、三流リーダーは部下同士を「競わせ」、二流は「やる気」にさせようと働きかけ、一流は「リーダーとしてのありよう」を内省すると私は考えているのです。

(本原稿は『臆病な経営者こそ「最強」である。』を一部抜粋・大幅加筆したダイヤモンド・オンラインの記事からの転載である)

『臆病な経営者こそ「最強」である。』(荒川詔四著、ダイヤモンド社刊)
臆病な経営者こそ「最強」である。』(荒川詔四著、ダイヤモンド社刊)

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文=荒川詔四

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