経営・戦略

2025.11.11 14:45

三流リーダーは部下同士を競わせ、二流はやる気にさせる。ならば一流は?

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「やる気」を失っていた社員の表情が変わる瞬間

しかし、私は、彼らと一緒に仕事をするのが苦ではありませんでした。

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正直に白状すれば、なかには「ちょっとやりにくいな……」と思った人物もいたのは事実ですが、「この部下は気に入らないから、取り換えてほしい」と言っても、組織に聞き入れてもらえるわけではありません。

それよりも、与えられたメンバーでプロジェクトを成功させるのが、私に課せられた仕事ですから、「好き嫌い」という感情は放っておいて、すべての部下に最大限の力を発揮してもらうのが正解。だから、私は、部下との相性には頓着せず、彼らに力を発揮してもらうことに集中しました。

と言っても、たいしたことをやったわけではありません。

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たとえば、タイ・ブリヂストンのCEO(本社の職位としては部長級)だったときに、本社の反対を押し切る形で、第二工場の建設を進めたときのお話しをしましょう。

あのとき、本社から、工場建設の経験が豊富な複数の人物が送り込まれてきたのですが、中には性格がキツいといった理由で本社では干されていたような人もいました。その人は、ついにタイに放り出されたと感じたのか、当初はふてくされたような態度すら見せていました。

しかし、僕が、「世界のモデルとなるような工場をつくりたいんだ」「機能的かつデザイン性にも富んだ、みんなの誇りになるようなすごい工場をつくろうじゃないか」「自動車メーカーなどの取引先が、びっくりするくらいの工場にしたいね」「そんな立派な工場が作れたら、きっとビジネスも大きくなるよ」などと語りかけると、彼の表情は明らかに変わりました。

僕自身、本社のさまざまな部門からさんざん叩かれて、やっと取締役会の承認を取り付けたプロジェクトでしたから、非常に強い思いがありました。その気持ちを率直に伝えることで、何か彼の気持ちにも訴えるものがあったのではないかと思います。

こだわりの「裏」にあるもの

しかも、彼の話にじっくりと耳を傾けると、工場建設に関する知識と経験が半端ではなく深いことがよくわかりました。

彼なりのこだわりが強く、そのこだわりを強く主張するがゆえに、敵を増やしてしまったようでしたが、そのこだわりの裏には、極めて説得力のある「深い理由」があることもよくわかりました。

そこで、私は、彼の力を信じて、建屋の建設については基本的にすべてを任せることにしました。もちろん、何かを決定するときには、必ず事前に報告・相談してもらうことにしましたが、予算や工期などの制約に引っかからない限りは、彼の提案を極力尊重するようにしたのです。

最初は、彼も疑心暗鬼でした。

私が「全部、任せますね」と言うと、「え?(嘘でしょ?)」とあっけに取られたような表情を浮かべていました。それまでの部署で、彼は「小さな仕事」しか任されないうえに、マイクロマネジメントの対象になっており、彼がやろうとすることにはいちいち横槍が入って潰されてきたからだと思います。

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文=荒川詔四

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