「競争原理」は仕事において本質的ではない
そもそも、「競争原理」や「インセンティブ・システム」は、仕事において本質的なことではありません。
仕事において最も重要なのは、一人ひとりの内面において、「この仕事は面白い!」「この仕事には値打ちがある!」「この仕事を成功させたい!」という思いが芽生えることです。人間は誰でも、そのような思いが芽生えれば、たとえ困難な仕事であったとしても、それをなんとしても成し遂げようと、高いモチベーションで仕事に取り組むようになるのです。
これこそがモチベーションの本質なのであって、「競争に勝つために頑張る」とか、「インセンティブをもらうために頑張る」などというのは、この観点から見れば、「ノイズ(雑音)」のようなものだとさえ言えるのです。
経営が「社員の心の中」に手を突っ込むことはできない
ただし、すでに書いたように、「この仕事を成功させたい!」という思いが芽生えるかどうかは、最終的には本人次第。経営側が従業員の心の中に手を突っ込んで、そういう「思い」を無理やり植え付けることなど原理的に不可能です。
では、経営者はどうすればいいのか?
私にも確たることが言えるわけではありませんが、これまでさまざまな経験を重ねるなかで、経営者が絶対に押さえておくべきポイントが少なくとも二つあると考えています。
ひとつは、経営者自身が「この仕事(事業)には価値がある!」と本気で思っていること。もうひとつが、従業員一人ひとりの「自主性」「自発性」を尊重するということ。この二つのポイントを押さえておくことが、従業員が仕事に対するモチベーションを上げる基本条件ではないかと思うのです。
新規事業のプロジェクト・チームの現実
具体的に説明しましょう。
私は若い頃から、「こんなプロジェクトを実現したい」と大小さまざまな新規事業を提案してきました。社内を駆けずり回ってなんとか「GOサイン」を取り付けると、さまざまな部署から人材を出してもらって、プロジェクト・チームを作ることになります。
ただ、こういうときに、いわゆるエース級の人材がエントリーされることはまずありません。たいていの場合、性格がキツかったり、クセが強いといった理由で、その部署なかで”干されていた人物”が回されてくるわけです。
もちろん、そういう人物のモチベーションは極めて低いのが現実。長年にわたって干されてきたうえに、”お払い箱”にされたと感じているはずですから、それも当然のことでしょう。


