リーダーシップ

2025.10.10 12:00

「スピード至上主義」の現代こそ、リーダーに「静止」が求められる理由

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スピードが崇拝され、私たち全員が多事多難に対処している時代において、スピードを落とすことはリーダーにとって最も大胆かつ生産的な行動かもしれない。

米シリコンバレーではスピードは生き残ることだという神話が築かれてきた。シスコのジョン・チェンバース元最高経営責任者(CEO)はかつて、企業は毎年自社改革を行わなければ存在意義を保てないと主張した。ダクシュ・グプタのような若い人工知能(AI)分野の起業家は週6日毎日12時間働くことを支持し、従業員に仕事第一主義を受け入れるよう促している。物事をより安く、速く、効率的にするというAIの加速度を重ね合わせれば、意図するところは明らかなようだ。それは生産量、そしてペースは常に上昇するはず、という期待だ。

だが持続可能性を欠くスピードは誤った“経済”だ。脳科学、心理学、そして実体験が示すのは、動きを止めることが創造性や回復力、長期的な影響力を高めるという別の真実だ。

頑張りが隠れみのになるとき

女性を対象としたデジタルコミュニティHello Moxie(ハローモキシー)の創設者でCEOのニコール・ドネリーは、がむしゃらに働くことの誘惑を誰よりもよく知っている。

「人生の大半の間、私自身もその神話を信じていた」とドネリーは振り返る。「発言を封じられた家庭で育った私は、生き残るためには過剰なまでに頑張って忙しくし、自分の価値を証明しなければならないことを早くから学んだ」。

ドネリーは代々起業家として成功している家柄の出身で、功績は安全を意味することをすぐに学んだ。ドネリーは30代でDMGデジタルを勢いあるマーケティングエージェンシーに育て上げ、収益を4年間で4倍にした。ドネリーの絶え間ない意欲は周囲の人の目には華々しく映った。だが内面は空虚だった。

「私は仕事中毒になり、忙しさと価値を同一視する人間になっていた」とドネリーは言う。「恋愛関係も健康状態も悪く、本来の自分を見失っていた」。

幼少期の感情的虐待と仕事中毒との関連

研究はドネリーの話を裏付けている。専門誌『Journal of Behavioral Sciences(ジャーナル・オブ・ビヘイビオラル・サインエシーズ)』に2024年に掲載された研究では、幼少期の感情的虐待と仕事中毒との間に直接的な関連があることがわかった。過重労働をすると昇進や評価、収入などの増加といった外的な報酬を手っ取り早く得られるが、長期的なコストは途方もなく大きい。生活の質の低下や不安、バーンアウト(燃え尽き症候群)、さらには慢性疾患すら伴う。感情・心理的虐待の経験者は身体・性的虐待の経験者よりも、うつ病から心的外傷後ストレス障害(PTSD)に至るまで、健康転帰が悪いと指摘する研究もある。

ドネリーは深夜に集中的な作業をしているときではなく、動きを止めているときに限界を迎えた。「外のハンモックに座り、呼吸に意識を向け、自分の体に身を任せる練習を何年も続けた後、私は自分自身から逃げていることに気づいた」と回想する。「そして初めて、走るのをやめた。そして、目一杯頑張ることで失っていたもの、つまり自分の声を再び見つけた」。

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翻訳=溝口慈子

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