韓国ブランドを追う家電事業、AI搭載の高級路線へ舵を切る
ムンバイの格付け会社ICRAが2025年9月に公表した報告書によると、ゴドレジはインドの家電市場で最大級のブランドのひとつで、依然として激しい競争にさらされている。冷蔵庫では韓国勢のLGやサムスン、国内勢ではHavells(ハベルズ)と競い、エアコンではBlue Star(ブルースター)やタタ・グループ傘下のVoltas(ボルタス)、洗濯機では米国系企業のインド子会社Whirlpool of India(ワールプール・オブ・インディア)などがライバルだ。
「私たちはまだ韓国ブランドを追いかけている段階だ」とホルカルは認める。「彼らの方が、インド市場を的確に押さえ、地方都市への展開でも先行していた」。
ゴドレジ・アンド・ボイスは、かつて冷蔵庫市場で先行していたが、その優位を失った。1958年にインド初の国産冷蔵庫を発売し、1990年代にはゼネラル・エレクトリック(GE)と提携して市場をリードしていたものの、韓国の財閥勢がインド市場に進出し始めた1999年に合弁事業を解消した。
グルガオンに拠点を置く経営コンサルティング会社The Knowledge Companyのシニアパートナー、アンカル・ビセンはこう指摘する。「家電分野でのリーダーシップにはブランド力が大きく関係するが、インド全土に浸透する強力なブランドは数多く存在する」。
しかし、ゴドレジは現在、卸売業者や小売店、そして「ゴドレジ・インスパイア・ハブ」と呼ばれる独自のブランド店舗150店を含む、全国約4万店舗の販売網を通じて家電製品を販売しており、巻き返しを図っている。
「これまで私たちは主にマスマーケットに依存してきたが、コロナ禍の際にその市場が完全に止まってしまった。そこで私たちは方向を転換し、より高級志向の製品ラインへと移行した」とホルカルは語る。その結果、音声操作やアプリ連携に対応した人工知能(AI)搭載エアコンや冷却と電力消費を最適化する冷蔵庫、洗濯物の量に応じて使用水量を自動計算する洗濯機といった製品を投入している。こうした戦略は成果を上げているようだ。ICRAが9月に発表した報告書によると、家電部門の利益率は前年の2.2%から2025年度にはほぼ倍増し、4%に達した。
約213億円を投じるDX戦略、全部門の顧客データを一元化する
ホルカルによる改革の重要な柱の1つが、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。ゴドレジは1億4000万ドル(約213億円)を投じて、すべての消費財部門の顧客データを一元化するプラットフォームを構築している。
「販売、マーケティング、サービスの各データを統合し、顧客を一人ひとりの視点で把握できるようにした。アフターサービスを自社で管理することが不可欠だ。長期的な顧客との関係を築くうえで、非常に重要な手段だからだ」とホルカルは語る。
ホルカルが主に指揮を執るのは消費財部門だ。別途同社は、彼女の叔父の管轄下にある航空宇宙部門の製造能力の拡大にも取り組んでおり、ムンバイから南へ約70キロに位置するカラプルに新たな航空宇宙部品製造施設を建設中だ。ゴドレジ・エアロスペースは今後、研究開発や試験の分野で宇宙スタートアップとの提携を模索しているという。この動きは、インド宇宙研究機関(ISRO)が一連の衛星打ち上げ計画に加え、有人宇宙飛行や火星再訪ミッションを準備しているタイミングと重なっている。
弁護士としての経歴を持つホルカルは2015年、ゴドレジ・アンド・ボイスに渉外担当の上級副社長として入社し、2018年に専務取締役へ昇進した。現在、彼女はゴドレジ一族の4代目の中で唯一、経営陣の一員として実務を担っている(彼女の妹フレヤン・クリシュナ・ビエリと、叔父ジャムシードの息子ナブローズは非常勤取締役を務めている)。
ホルカルが最初に取り組んだのは、送電システムの設計・構築を手がけるゴドレジ・アンド・ボイスのエネルギーソリューション事業の強化だった。彼女はリスク管理の精査を徹底することで契約内容を引き締め、製品輸送における運賃や保険の条件についても有利な交渉をまとめた。その後、同社の技術インフラの刷新に着手した。「当社では独自開発した技術が多く、保守やアップグレードが難しかった。そこで標準化された既製ソリューションへの移行を始めた」とホルカルは語る。


