経営・戦略

2025.10.13 10:00

インド大手財閥「ゴドレジ」、43歳の女性相続人が挑む歴史ある家業の再構築

ニリカ・ホルカル(C)Interio

ニリカ・ホルカル(C)Interio

2023年8月、インドは月探査機チャンドラヤーン3号を月の南極に着陸させ、月面着陸に成功した世界で4番目の国となった。この快挙の背後で重要部品を供給したのが、ゴドレジ・エアロスペース(GA)だ。ゴドレジ・エンタープライゼス・グループの中核企業ゴドレジ・アンド・ボイス(G&B)に属する航空宇宙部門である。GAは過去40年以上にわたり、インド宇宙研究機関(ISRO)の数百件に及ぶ商業衛星打ち上げや2014年の火星探査ミッションに重要コンポーネントを供給してきた。

一方インド国民にとってG&Bは、スチール製の戸棚や冷蔵庫など日常の家庭用品のブランドとして広く知られるという、コングロマリットでもある。そして現在、G&Bを全社的に立て直す役割を担っている専務取締役がニリカ・ホルカル(43)、100年以上の歴史を持つ大手財閥ゴドレジ・グループの4代目にあたる後継候補だ。

この再編の背景は、コロナ後の需要変化と家電・家具での競争激化、そして2024年の一族分割による体制刷新があるという。彼女は、Z世代の取り込みとスウェーデンの競合イケアへの対抗力強化を掲げ、ブランド・製品・販売の刷新を進めている。

インド・ムンバイ、ヴィクロリにあるゴドレジ・アンド・ボイス傘下のゴドレジ・エアロスペースの生産施設(Photo by Anshuman Poyrekar/Hindustan Times via Getty Images)
インド・ムンバイにあるゴドレジ・エアロスペースの生産施設(Photo by Anshuman Poyrekar/Hindustan Times via Getty Images)

創業120年超のインド巨大財閥、「最先端の宇宙機器部品」の顔と「家庭用品」の顔

フォーブス・アジアは9月、ムンバイ北東部ビクロリのマングローブ林に囲まれたゴドレジ・グループ本社でホルカルにインタビューを行った。彼女は同グループの会長兼マネージングディレクターである叔父のジャムシード・ゴドレジ(76)の後継者と見られている。ジャムシードと、その妹でホルカルの母であるスミタ・ゴドレジ・クリシュナ(74)の純資産の合計は112億ドル(約1.7兆円。1ドル=152円換算)にのぼり、2人はインド長者番付で20位にランクインしている。

インドで「ゴドレジ」の名は、最先端の宇宙機器部品ではなく、家具や冷蔵庫、洗濯機などの家庭用品のブランドとして広く知られている。同社のスチール製の二重扉のクローゼットは長年、中流家庭の定番として親しまれ、衣類や食器、宝石、書類まであらゆるものを収める収納家具として愛用されてきた。

こうした一般消費財の売上高は、ゴドレジ・アンド・ボイスの2025年度の売上高23億ドル(約3496億円)の約6割を占めており、ホルカルが現在もっとも注力する分野となっている。

創業家4代目の後継者、約806億円を投じ近代化を主導する

「私たちの最大の課題は、長い歴史を持つブランドを、どのようにして顧客中心の小売ビジネスとして再構築していくかだ」と、ブランド戦略や法務、M&Aを統括する43歳のホルカルは語る。同グループは現在、8カ所ある製造拠点のうち2拠点で生産能力を拡大するために約5億3000万ドル(約806億円)を投じ、高級製品の投入や新市場への進出、製品ラインの刷新を進めている。

「今の焦点は、研究開発や製品開発、そしてデジタル技術の導入だ」とホルカルは話す。その取り組みは、成果を上げつつある。売上高は3年間でほぼ倍増し、税引後利益も2021年度のコロナ禍の落ち込みから4倍の6700万ドル(約102億円)へと急増した。

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翻訳=上田裕資

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