“働く=効率”という思考からの脱却
北村紀子(以下、北村):ワークプレイスの中心地である東京には「余白」がほぼなく、理想と現実が乖離しています。経済成長のなかで効率性にとらわれ、上の世代ほど「働く場所は豊かでなくてもいい」という固定観念も根強いのではないでしょうか。島型対応のレイアウトなど、ヒエラルキーがそのまま反映されているかのような環境で働いた経験も影響しているのでしょう。
ただ、だからこそこれからが面白くなるはず。世代間で意識を統合し、本来、自然を愛でる力に長けている日本の文化感覚を“取り戻す”必要性を感じます。
野村:ここ10年でオフィス環境は、本当に大きく変わりました。その理由の一つは、ワーカーがオフィスに対して“親しみ”を感じるようになったことだと思います。
外資系企業は合理的設計のニーズが多いですが、日本企業では「生き生きとした空間」「ワクワクする空間」といった、感覚的なニーズが増えています。「プライベートと仕事を無理に切り分けなくてもいい」という気づきが増えた結果、効率性よりも豊かさやコミュニティ形成が重視され、設計はより複雑で多層的になっています。
佐々木 基(以下、佐々木):オープンオフィスが主流になるなか、人との距離感やつながり方をデザインする「間」や「余白」といった空間のあり方は大切ですね。オフィスの居心地にも直結しそうです。
木下:生産性だけでなく、人々の間の関係性を生み出す余白や、人間らしく社会と関わる場としてのワークプレイスの重要性もあるはずです。 ただデザイナーとして相談を受ける時点ではすでに物件や収容人数が決まっていることが多く、限られた条件の中で設計していくことが大事になります。物件探しからかかわれれば、より柔軟な設計ができるのですが……もどかしいですね。
北村:why work tokyoは、まさにそのために発足したといえるでしょう。職場を会社の文化を表現する空間にするために、どういう会社でありたいかという原点から並走できれば、さらによい空間の設計につなげられるはずです。「働く場の発明」に大きな投資は必須ですが、日本発で達成できればより大きな尊敬を得られると思います。
前嶋:昨年は韓国やデンマーク、ドイツ、フィンランドのオフィスを見ました。海外のオフィスはゆとりある空間で、そこまで緻密に計画されていない大らかさがあります。日本は良くも悪くも計画的で細部まで作り込まれており、それが日本的と言えるのでしょう。大らかさや豊かさを消してしまう面もあります。
だからこそ、「場所選び」は非常に重要です。どのビルを使うか、どのロケーションで、どこの土地に建てるかは、住宅を建てるときと同じようにオフィスでも考えるべきことです。半分以上の条件がそこで決まると言っても過言ではありません。
新海:日本特有の上下関係やチームワークの文化の影響で、上層部は開放的なオフィスを目指しても、現場は上司の目を気にしてオープンスペースを自由に使えないこともあります。両方の立場を否定せず、文化的慣習も踏まえたうえで、日本ならではのチームワークや心理的距離を考慮した設計も生まれるのではないでしょうか。
野村:確かに“仕掛け”を好むクライアントは多いですが、空間を与えただけでは「偶発的コミュニケーション」は生まれません。経営者と現場の課題認識のギャップがあることを理解し、ワーカーにもっと考えや選択権を与えることが重要だと考えます。ワークプレイスデザイナーとして、働く人の仕事への意識や行動「ワークスタンス」を引き出すためには、クライアントとの長期的な関係が不可欠。考える“きっかけ”を与えるのも私たちの使命でしょう。


