リーダーはまた、ヒエラルキーを念頭に置いて発言を調整した方がいい。役職が上がれば上がるほど、その発言に伴う重みも増していく。同じ発言でも、それが同僚の言葉なら率直な軽口に聞こえるかもしれないが、経営幹部の言葉となると、不安定だと思われてしまうおそれがある。受け止められ方がこのように違う以上、経営幹部は真正性を表すときに、より意図的に言葉を組み立てなくてはならない。
「戦略的な真正性」が信頼構築につながる
真正性を慎重に用いれば、言行が一致することで、信頼が強化される。従業員がより重視しているのはこうした言行の一致であって、完璧な行動ではない。一貫性がないと、発言の不備よりもずっと速いスピードで信頼が損なわれていくだろう。
「戦略的な真正性」において重視すべきは、ただ感情を見せるのではなく、価値観を明らかにすることだ。リーダーが、自らの意思決定につながった原則について説明すれば、部下は、たとえ先の見えない状況であっても、どう行動していけばいいのか予測を立てやすくなる。こうした予測可能性が心理的安全性を生み出す。
戦略的な真正性はまた、レジリエンスの強化にもつながる。リーダーが厳しい決断を下した理由を理解すると、部下は、困難な時期でも熱心に仕事に取り組むようになる。特定の決断について異論があるとしても、その根底にある意図には信頼を置く。
個人的なストーリーと組織の価値観を結びつけると、リーダーは真正性を戦略的に発揮できる。ある原則が個人的に重要である理由を説明すれば、リーダーが下した決断は、漠然としたルールではなく、その人らしさを表現したものとなる。その結果、明確さを損なわずに感情的なつながりが生まれる。
タイミングも重要だ。真正性は物事の勢いを削ぐのでなく、後押しするかたちで表明されるときに、最大の効果を発揮する。例えば、計画の概要を示したあとに懸念を表明すれば、慎重さを示すことになるが、計画もないのに疑念だけを口にすれば、不安定さだととられてしまうだろう。同じ中身でも、どう提示するかによって受け止められ方が決まるのだ。


