AI

2025.11.18 08:45

Sakana AI共同創業者ライオン・ジョーンズが語る「LLM革命」、創業秘話、そして日本のAI人材【後編】

━━それはなんとも逆説的に感じられますね。

ジョーンズ:ええ、クレイジーな話でしょう? 「奇妙な経緯でAIは進化したのか」と問われれば、その通り、私たちはきわめて奇妙なやり方でゴールに近づいています。私たちは、AIを緻密に設計しているわけではありません。ただ、膨大なプログラムの空間の中から、きわめて知的に見えるものを見つけ出しているに過ぎないのです。それがどうやって動いているのか、私たちにも分かりません。

━━AIは綿密に設計され、整然と構築されていると考えがちですが、実態はめちゃくちゃなんですね。

ジョーンズ:中身はもう、めちゃくちゃですよ。実際、先日も(Transformer論文の共著者である)ルカシュ・カイザーとこの件で激論になったんです。そもそも「Transformerは原理的にリバースエンジニアリングできるのか」という根本的な問題で、彼と私の意見は完全に割れました。

私は「おそらくできるのではないか」という立場ですが、 イノベーションのスピードについていくのは難しいだろうと思っています。私たちがその仕組みを解明しようとするスピードより、プログラム空間を探索するスピードの方がずっと速くなるでしょう。

ですが、ルカシュは「いや、無理だ」という意見でした。彼の主張はこうです。「知能というもの自体が、そもそも混沌としている。知識のさまざまな領域を結びつけ、抽象的で確率的な事象にも対処する必要がある以上、それを実装したシステムも必然的に混沌としたものにならざるを得ない。我々が、知能をきれいで整然とした形で実装できる日は決して来ないだろう」とね。

━━それはとても興味深いですね。こうした“カオス(混沌)”はSakana AIの企業哲学とも共鳴しているように思えます。会社を立ち上げるに至った理由と思想自体、自然からインスピレーションを得ているわけですから 。

ジョーンズ: ええ、自然というのもまた、じつにごちゃごちゃしたものですから。人間が設計した昔ながらのアンテナって、見たことありますよね。数学的な計算に基づいて、「この周波数に共鳴させるには、この長さのワイヤーが必要だ」といった具合に作ります。そうしてできあがるのは、左右対称で角度もきれいな、いかにも整然としたアンテナです。「はい、どうぞ」って感じでね。

ところが、コンピュータにアンテナを「進化」させて作らせると、性能は格段に良いのに、見た目はもうめちゃくちゃなものができあがるんです。優れた解決策というのは、案外ごちゃごちゃしているものなのかもしれませんね。その点は、Sakana AIの哲学とまさに通じるものがあります。

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文 = 井関庸介 写真 = 能仁広之

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