━━Sakana AIの採用選考に応募する条件として、日本で働くことが必須になっています(編集部註:採用ページには「日本語能力は必須ではありませんが、技術スタッフとして採用された場合、日本在住が条件です」との記載あり)。Transformer論文が生まれた経緯を考えると、共著者の皆さんはGoogleの同僚として研究への関心、友情、あるいは偶然から互いに出会っています。仮に、完全にリモート勤務であったとしたら、そのようなことは起きなかったかもしれませんね。
ジョーンズ:もし私たちが一般的なソフトウェア会社で、YouTubeのような製品を作っていたなら、オフィス勤務を求めたりはしなかったでしょう。プログラマーなら、世界中のどこにいても仕事はできるはずですから。しかし研究となると、やはり同じ場所にいることが本当に重要だと私は思います。Transformer論文の著者チームはその好例です。私たちはきわめて国際的なチームでした。文字通り世界中からメンバーが集まっていましたが、でも物理的には同じ場所にいたのです。
大切なのは、同じチームに所属しているかどうかではなく、物理的に誰が同じ場所にいるか、だったんです。というのも、私はGoogle Research、他のメンバーはGoogle Brainに所属するなど、同じチームでありながら組織が分かれていました。さらに、メンバーの半数はニューヨークにいたのです。じつは、ニューヨークで自己注意(self-attention)に関する研究が行われ、それがTransformerの研究につながった経緯があります。
しかし、ニューヨークにいたメンバーは誰も論文には名を連ねませんでした。(Googleでも)当時の研究には、せいぜい隣の建物まで歩いて行って「これ、どう思う?」と気軽に聞けるような物理的な近さが本当に必要だったのです。今も、(Sakana AIでは)誰かの会話が耳に入ったり、ふとホワイトボードにアイデアを書きに行ったりする光景が見られます。純粋な研究組織だからこそ、私はメンバーに「ぜひ、ここに一緒にいてほしい」と強く伝えているんです。
━━Googleでは、社員同士がばったり出会うセレンディピティを大切にしていたと聞いたことがあります。カフェテリアのつくりも肘がぶつかってしまうくらい敢えてテーブル間を狭めるなど、意図的に設計されていると。2013年にGoogle本社の広報担当者に聞いた話では、そうした偶発的な出会いを引き出すことを「グーグル・バンプ(Google Bump)」と呼んでいたそうです。
ジョーンズ:廊下でばったり会うような偶然の出会いが、私たちの文化の重要な一部なんです。プロジェクト自体も、ボトムアップかつ有機的に始まったものでした。マネジャーや会社全体のOKR(目標を設定し達成度を測る手法)のような、トップダウンの指示があったわけではまったくありません。それこそ、「このアイデアは面白そうだね。誰が興味をもつか、まずは取り組んでみようか」といった感じで始まったのです。


