パート3:Sakana AIの哲学と次世代AIへの展望
━━Sakana AIはいわば「営利目的のAIに特化したR&D(研究・開発)ラボ」のように思えますが、ライオンさんはそこでCTO(最高技術責任者)としてどのような役割を担っているのでしょうか。
ライオン・ジョーンズ(以下、ジョーンズ): 最初の頃は、CTOがいったい何をすべきなのか、その役割を理解するために多くの時間を費やしました。たくさんのCTOにインタビューしたんです。「ふだんは何をしていますか?」「どうやってキャリアをスタートさせましたか?」「どんな失敗をしましたか?」「何に気をつけるべきですか?」と。そこで分かったのは、CTOの役割は会社によって千差万別だということでした。私自身、創業者でもあるので、結局はやるべきことは何でもやる、というしかありません。
当初は、片隅にあるデスクでコーディングに没頭できるのでは、なんて甘い考えをもっていました。でも、ふたを開けてみれば、マネジメントや面接、講演といった仕事に追われ、面白いコーディングをする時間はまったくありません。その代わり、優秀なメンバーたちに「このアイデアを試してみない?」と投げかけ、実際に試した結果を一緒に見ることができるのは、最高に楽しいですね。
製品がかたちになれば、私の役割もより明確になるはずです。YouTubeに4年間いましたから、質の高いソフトウェアをどう作ればいいかは分かっています。ただ、立ち上げ当初は研究ラボのようなものですから、自分の役割を定義するのは難しかったですね。特に、研究者たちにはできるだけ多くの自由を与えたいと決めていたので、なおさらでした。マイクロマネジメントをしたり、特定の方向へ無理に誘導したりはしない、ということです。
私は常々、研究者たちには「面白い、そして重要だと思うこと」に取り組んでほしいと公言していますが、これは言葉通りの意味で、実践してくれています。もちろん、リスクも伴います。研究が思いつきに寄りすぎで、何の役にも立たない可能性もあるからです。新しい製品にはつながらないかもしれません。しかし、私たちはもともと自分たちの会社を「長期的な賭け」と位置づけていますし、結果としてリスクを分散させることにもなっています。
というのも、優秀な人材と一括りに言っても、その中には多様なタイプがいるからです。突飛なアイデアを追求したい人もいれば、実際に動くものを作りたい人もいます。その結果、今動いているプロジェクト全体を見渡すと、「これは堅実できっとうまくいくし、何らかのかたちになるだろう」というものから、「これはかなりクレイジーでぶっ飛んでいるけれど、もし何か生まれればとてつもなく面白いことになるぞ!」というものまで、幅広いラインナップになっているんです。
━━これらのプロジェクトすべてを結びつける、何か通底するテーマのようなものはあるのでしょうか。
ジョーンズ:「自然から着想を得る(nature-inspired)」という方針を掲げていますが、それが絶対条件というわけではありません。あくまで、進化やスパイキングニューラルネットワーク(SNN;生体ニューロンの発火を模した時系列送信モデル)といったものからヒントを得るのが望ましい、といったニュアンスです。だからといって、本当に何でもできるわけではなく、いきなり「量子コンピュータをやりたい」とか「自動運転車に挑戦したい」と決められるものではありません。それでもSakana AIの採用選考はかなり厳しいので、そのプロセスを通過したなら、私たちの哲学と深く合致し、目指す方向も同じだということの証です。


