新会社Prima Materiaを通じ、VCが踏み込めない領域に挑む
エクが、SpotifyのCEO職を退く背景には、彼の関心が音楽業界の枠を超えて広がっていることが挙げられる。2021年、エクは新たな一歩を踏み出す。同社の初期投資家で長年の友人でもあるシャキール・カーンとともに、投資持株会社「Prima Materia」を設立したのだ。この10億ドル(約1520億円)規模の会社は、欧州発のハイリスク・ハイリターンなテクノロジー分野を投資対象としている。「この会社は、“企業を生み出す企業”だ。私たちは、従来型のベンチャーキャピタル(VC)では手の届かない領域──投資家が踏み込めない、あるいは時間軸が合わない産業──に挑もうとしている」とエクは語る。
疾病検査のNekoは、2社目のユニコーン企業に
その最初の長期的な賭けの1つが、エクが2018年にPrima Materiaを通じて設立したNeko(ネコ)と呼ばれる疾病検査のスタートアップだ。同社のチームは7年をかけて、皮膚がんや心疾患を迅速に検査できるハードウェアを開発し、市場投入に至った。そして2025年1月、NekoはシリーズBラウンドで2億6000万ドル(約395億円)を調達。出資した著名なVCは、ライトスピード、ゼネラル・カタリスト、レークスター、アトミコなどだ。調達後の評価額は18億ドル(約2736億円)に達した。この取引によって、Nekoはエクにとって2社目のユニコーン企業となった。
次の投資先は軍事分野、ウクライナや欧州の防衛にも貢献
エクはまた防衛テック分野にも投資している。現在、彼はドイツの軍事スタートアップ「Helsing(ヘルシング)」の会長を務めている。同社は「欧州版Anduril(アンドゥリル)」とも評される。もともと、AIを用いて軍事・戦場データを分析するソフトウェア企業として始まったが、現在ではAI搭載の軍事ドローンや潜水艦を開発するハードウェア企業へと進化した。
2025年7月、エクのPrima Materiaは、Helsingへの6億ユーロ(約1062億円)の投資ラウンドを主導した(この投資をめぐって、一部のアーティストがSpotifyから楽曲を引き上げると表明したが、その数はごくわずかだった)。
「Helsingへの投資は、当時のVC業界にはできない、あるいはやりたがらない種類のものだった」とエクは語る。「だが、私にとっては欧州の防衛を支援するための試みは、非常に重要だった。Helsingは今、ウクライナの防衛に深く関わっており、それは非常に意義のあることだと考えている。こうした通常のVCが手を出せない分野こそ、私が注力したいテーマだ」。


