パート2:東京とSakana AIへの道
━━それがどうして、Google本社があるマウンテンビューから東京へ移ることにつながったのですか?
ジョーンズ: 2017年に東京に来て、ここをすっかり気に入ってしまったんです。当初はただの休暇で、観光目的の来日でした。それが、ここを本当に大好きになってしまったのです。周りには冗談で「東京に引っ越したい」と話していましたが、まさか本当に実現するとは思っていませんでしたが。でも2019年の終わり頃、東京へ移ることを真剣に考え始めました。
いや、本当に驚くのは、Googleがどれだけ簡単に生活の拠点を移させてくれるか、ということですよ。社内サイトのボタンを一つ押すのと同じくらい簡単でしたから。確か2019年の11月だったと記憶していますが、まずは休暇で東京に来て、本当に気に入るかどうか確かめてみたんです。あえて京都まで足を伸ばすことはせず、東京での暮らしを体験してみることにしました。最初の2週間は仕事、残りの2週間は休暇に。正直、言葉も通じないし、戸惑うことも多いだろうから、1ヶ月もいたら帰りたくなるだろうと思っていました。でも、実際はまったく逆。ここにいればいるほど、この街がどんどん好きになっていきました。
その11月の滞在中、Googleの東京オフィスを訪ねて何人かと会い、その時に(Sakana AI 共同創業者兼CEOの)デイビッド・ハとも初めて会いました。デイビッドに「あなたのチームに入れませんか?」と聞いてみたのですが、あいにくポストに空きがありませんでした。その後、最終的に私が加わることになったチームの責任者にも会いました。相性が良さそうだと感じましたね。ただ、ちょっとお茶目というか、ズルい手を使ったんです。「君の内部評価レポートが見たい」と言われました。これは昇進などの際に作成される、マネジャーしか見られない書類です。そして、「(レポートを見る)いちばん簡単な方法は、この職種に応募することだ。自動的に私に送られてくるから」と。でも彼はその時、自分側の画面にある「承認」ボタンを押すつもりでいたことまでは言わなかったのです。
すると、すべてが動き始めました。Googleから「異動日と新しい給与、転居パッケージはこちらです」といったメールが次々と届き始めたのです。私は「まだ正式に決めたわけではないんですが」と伝えたものの、背中を押されたんでしょうね。一週間ほど考えるフリをしていると、新しいチームのメンバーにこう言われたのを覚えていますよ。「ボタン一つで東京に引っ越せる。その事実こそが、君がそうすべきだという何よりの証拠だよ。誰にでも与えられるチャンスじゃないんだから」。


