AI

2025.11.18 08:45

Sakana AI共同創業者ライオン・ジョーンズが語る「LLM革命」、創業秘話、そして日本のAI人材【前編】

━━社内での評価とキャリア形成のプロセスが興味深いですね。Google内で新たな研究の機会を求めていたのでしょうか?

ジョーンズ:私がこれまでやってきたのは、ただ自分が「面白い」と感じること、それだけです。もっと稼ぎたいとか、もっとよい仕事や地位が欲しいとか、そういうことのために自分を合わせたことは一度もありません。AIの研究をしているのは、それが大好きだからです。そして、常に一番面白いことがどこにあるかを探し求めてきました。そうしているうちに、いつの間にかここまで来ていた、という感じです。レイ・カーツワイルのもとで働いたらめちゃくちゃ面白いだろうな、と思っただけのことですよ。彼はまちがいなく興味深く、そして少し物議を醸すような人物ですからね。

「レイ・カーツワイル(写真)のもとで働いたらめちゃくちゃ面白いだろうな、と思っただけのことですよ」(ライオン・ジョーンズ、Sakana AI共同創業者兼CTO)(Photo by Diego Donamaria/SXSW Conference & Festivals via Getty Images)
「レイ・カーツワイル(写真)のもとで働いたらめちゃくちゃ面白いだろうな、と思っただけのことですよ」(ライオン・ジョーンズ、Sakana AI共同創業者兼CTO)(Photo by Diego Donamaria/SXSW Conference & Festivals via Getty Images)

━━学生時代のニューラルネットワーク研究から、Transformer論文へと辿り着いた経緯について教えていただけませんか。

ジョーンズ:かなり型破りなルートでここまで来たと思います。そもそも多くの人は私が博士号を取得しているものだと考えているようですが、実際は違います。私が大学にいたのは2000年代の初頭で、ニューラルネットワークは「80年代に試されたが、うまくいかなかった技術」と見なされていた時代でした。当時は「AIの冬の時代」の真っ只中でしたから。
その後、ディープラーニング革命の少し前に、再びニューラルネットワークにのめり込むことになりました。ジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton;「AIのゴッドファーザー」と称されるノーベル物理学賞受賞者)の動画を見たのがきっかけです。彼がYouTubeにニューラルネットワークに関する講義をたくさんアップロードしています。その一つを見た時の私の感想は、「動画の内容を完全に理解できたとは思わないけれど、彼は100%正しい」というものでした。それがきっかけで、ニューラルネットワークとディープラーニングについてさらに調べるようになりました。勾配降下法(誤差が最小になるよう調整する手法)やバックプロパゲーション(出力の誤差を元に重みを調整する手法)といったことを、空き時間を使って勉強しました。「これこそが本物だ」と感じたからです。

私が就職活動をしていた2009年頃は、リーマンショックの余波もあって世界的な不況の時期でした。半年間仕事を探しても見つからず、「どうすればいいんだ?」と途方に暮れていた時、手当たり次第に履歴書を送り始めたのです。「Google? まあ、いちおう送ってみるか」という感じで。就職したのはAI分野ではなく、DelcamというCADソフトウェアを開発する会社でした。その後、AutoCADを開発しているAutodesk(オートデスク)に買収されています。

Googleへ入社できたのは、元をたどればYouTube経由でした。ソフトウェアエンジニアとして応募したんです。YouTubeでの仕事はとても楽しかったのですが、私にとっては最適な場所ではありませんでした。AI研究をしたいという思いがあったのと、私の専門知識が活かせる場所ではなかったからです。

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文 = 井関庸介 写真 = 能仁広之

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