「究極の実用品」を見に行く意味
約250点のジュエリーと約60点のアーカイブ資料。1924年の《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》をはじめ、アール・デコ期の傑作が並ぶ。
「装飾美術は日常生活を豊かにするもの。ジュエリーは身につけて喜びや幸せを感じる、究極の実用品です」
会場で聞いたこの言葉が印象に残る。高額なジュエリーが「実用品」というパラドックス。でも確かに、絵画のように壁に飾るものではなく、身につけることで完成する芸術だ。
アール・デコ博覧会100周年を記念した本展は、来年1月18日まで。秋の柔らかな光から、冬の鋭い陽射しへ。季節とともに変わるジュエリーの表情を見られるのも、この展覧会ならでは。一部屋ごとに異なるコンセプト、異なる光。旧朝香宮邸を歩くこと自体が、タイムトラベルのような体験だ。
美術館を出たあと、コンビニの蛍光灯がやけに白く見えた。タイムマシンの副作用かもしれない。過去の美しいものを濃密に体験すると、現在がくっきり見えてくる。いいことも、そうでないことも。
ラグジュアリーメゾンが莫大な費用をかけて展覧会をひらく理由が、ようやくわかった気がする。慈善的な文化事業にとどまらない意味があるのだと思う。すなわち、これは100年という時間の重みを、身体で感じさせる装置だ。
その重みを知ったあとでは、世界の見え方が少し変わる。


