光で見るという贅沢
ハイジュエリーの展示といえば、薄暗い空間にスポットライトが定番だ。セキュリティの問題もあるが、宝石の輝きを最大化するための演出でもある。
今回の展示で面白いのは、窓からの自然光でジュエリーを見ることができることだ。朝と午後で表情が変わり、曇りの日には柔らかな光が宝石の内側から色を引き出す。2階の妃殿下寝室では、一般向けには初公開という寄木細工の床に反射した光が、ガラスケースの中のジュエリーを下から照らしていた。
1933年にこの邸宅が完成したとき、朝香宮夫妻もパリから持ち帰った装飾品を、この同じ光の中で眺めていたはずだ。そして今、100年前のアール・デコ博覧会でグランプリを受賞したヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーが、同じ窓からの光を浴びている。まるで時間が円環を描いて戻ってきたような、不思議な感覚。
デジタル画面では、この微妙な光の変化や、建築空間との共鳴は再現しきれない。技術的には可能かもしれないが、その場に身を置く身体性は、やはりリアルでしか得られない種類の体験だろう。
イノベーションという意外な言葉
「メゾンの歴史は絶え間ないイノベーションの繰り返しでした」
記者会見でヴァン クリーフ&アーペルのパトリモニー&エキシビション ディレクター、アレクサンドリン・マヴィエル=ソネ氏の口から「イノベーション」という言葉が飛び出したとき、正直驚いた。伝統や歴史を重んじるメゾンから、現代のテックカンパニーのような言葉が出てくるとは。
その代表例が1933年に特許を取得した「ミステリーセット」だ。宝石を留める爪を見せない独自技法で、台座の裏で宝石を滑らせて固定する。気の遠くなるような手仕事だが、これにより宝石本来の輝きが最大限に引き出される。
興味深いのは、邸宅の建築ディテールとジュエリーの細工に共通する「見えないところまで手を抜かない」という哲学だ。誰も気づかないかもしれないロープの縁取り。裏から見ても美しいブローチの仕上げ。なぜこれが100年の時間に耐えうるのか。それは「いつか誰かが気づく」ことを前提にしているからだ。
ファストファッションは今季売れればいい。でも100年残ることを前提にすれば、見えない部分の仕上げがいつか表に出てくることまで考えることができる。美術館に展示され、裏側まで観察されることを、当時の職人たちは想像していたかもしれない。


