昨年、知人が大手AI企業に転職した。入社手続きの一環として、いくつかのSlackチャンネルに招待されたという。最近ではよくある話だ。
だが、ランチに関する情報や社内ニュースの更新に混じって、彼女はもうひとつのチャンネルの存在に気づいた。そこは、新たに誕生した若きミリオネアたちのためのチャンネルだったのだ。そこでの会話の大半は住宅購入、税金、投資についてだが、27歳の新興富裕層たちが「どんなスポーツカーを買うべきか」と相談し合う投稿も少なくない。もしこれがバブルに関するドキュメンタリーの冒頭シーンでないとしたら、他に何がそうなのだろうか。
ニューヨーク・タイムズが米国時間10月6日に指摘したように、いま世界には「AI経済」と「それ以外の経済」という2つの経済が存在している。AIの世界では巨大契約が相次いでおり、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の株価はOpenAIとの数十億ドル規模の契約発表後に30%急騰した。
この提携は、おそらくエヌビディアとインテルが最近発表した、インテル製CPUとエヌビディア製GPUを組み合わせた新しいデータセンターおよびコンシューマー向けカスタムチップの共同開発計画に続くものだろう。テクノロジー株中心のナスダック総合指数は新高値を更新しており、トランプ関税やその他の混乱にもかかわらず、他の市場も順調に推移している。
しかし、このAIバブルにもし穴が開き始めたらどうなるだろうか。すでに「少し過熱しすぎではないか」という初期の警告サインも見え始めており、2000年代初頭のドットコム・バブルの様相に近づきつつある。
バブルが崩壊し始めるとき
FriendというAIウェアラブル端末の例を考えてみよう。これは、大規模言語モデル(LLM)と会話ができるというデバイスだ。もっとも、他の多くのLLMもすでにユーザーが所有する端末上で音声のやり取りを可能にしているため、技術的には特段目新しいわけではない。
それにもかかわらずFriendが有名になった理由は、ニューヨーク市の地下鉄で展開された大規模な広告キャンペーンと、それに対する「AIの危険性を警告する落書き」騒動である。
Friendには典型的なバブル企業の特徴がある。若いハーバード中退の創業者が700万ドル(約10億5200万円)を調達し、その大半を広告に費やし、製品を出荷するという構図だ。初期のレビューは惨憺たるもので、フォーチュンの批評ではこう評された。「まるでボケ気味で不安症の祖母を首からぶら下げているような気分だ」
こうした滑稽で派手な失敗例を別にしても、多くのAI企業は依然として収益化への道筋が乏しい。OpenAIの主な収益源はサブスクリプション契約、企業向け契約、そしてAPIライセンス料であり、最近ではShopifyと連携して販売者が同プラットフォーム上で直接商品を販売できる仕組みを立ち上げた。


