しかし、これらの取り組みをもってしても、同社がこれまでに調達した約600億ドル(約9兆200億円)、そして年間数百万ドル規模の赤字を埋められるとは思えない。
他のAIプラットフォームの多くは大手テック企業の傘下にあり、そのため既存の事業収益によって開発費を補うことができているが、その余裕がいつまで続くかはわからない。
もっとも、よくある注意点を付け加えておくべきだ。仮にAIバブルが崩壊しても、技術そのものが消えるわけではない。リーダーや企業が入れ替わる可能性はあるが、ドットコム・バブルがインターネットの終焉を意味しなかったのと同じく、AIバブルもLLMの終わりではない。
「バブルの先」の未来
バブルは、すでに不安定な株式市場の崩壊や景気後退の引き金になる。また、それは米国が世界のAI競争で主導的地位を失うきっかけにもなりうる。中国はAI分野での野心を公然と掲げており、米国が活動を一時的に停滞させれば、その間に追い抜かれるリスクがある。
初期のドットコム経済がシリコンバレーとニューヨークを中心に構築されたのに対し、AI競争はすでにグローバル規模で展開されている。
ここまで来てしまった以上、今さらできることは多くない。私たちは、膨らんだバブルが是正される過程を耐え忍び、やがてAIがインターネットの基盤に溶け込み、日常生活を支える「裏方の技術」として定着する世界に生きるしかないのかもしれない。
私たちがいま夢中で作っているSoraの動画は、おそらく2005年にみんなが作っていたMySpaceのページのようなものになるだろう。点滅する背景や微妙なヘアスタイルも含めて。だが、SNSが今も存在するように、AI生成コンテンツも日常の一部となり、誰も特別視しなくなる日が来るだろう。ChatGPTがAOLのように衰退する可能性はあるが、その代わりとなる何かが必ず現れる。
ベイエリアをスーパーカーで走り回る新興ミリオネアの若者たちは、しばらくの間はホンダのアコードのような実用車に乗り換えざるを得ないかもしれない。だが心配はいらない。彼らにはまだ新しい会社のアイデアが山ほどあり、そう遠くないうちに再びスーパーカーのハンドルを握ることになるはずだ。


