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2025.10.12 09:15

白髪はがん予防の防衛反応。安易な若返り対策にご注意

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白髪はいちばんわかりやすい老化のサインだ。髪の毛の色を決める細胞が老化して毛包からいなくなると髪は白くなる。なんとか細胞の老化を防げないものか、老化した細胞を排除できないものかと、アンチエイジング医療の研究が進められてきた。しかし、髪を白くする色素幹細胞の場合では、老化は悪いことではなく、むしろがんを予防して健康を維持するための防衛反応であることがわかった。

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東京大学医科学研究所老化再生生物学分野の西村栄美教授らによる研究グループは、理化学研究所、東京科学大学などとの共同で、加齢による組織の変性(組織老化)とがんの発生との関係を明らかにする研究を行っているが、髪の毛に色を付ける色素幹細胞が悪性黒色腫(メラノーマ)に変化する過程を追跡したところ、色素幹細胞の老化がメラノーマの発生を抑制することを突き止めた。

上は正常な状態。下はDNAの二重鎖が切断された場合。活性化状態に入ると、傷ついたDNAは老化して排除されるが、紫外線や発がん性物質のストレスを受けた場合はアラキドン酸代謝などで老化が抑制され、活性状態でがん化が進行する。
上は正常な状態。下はDNAの二重鎖が切断された場合。活性化状態に入ると、傷ついたDNAは老化して排除されるが、紫外線や発がん性物質のストレスを受けた場合はアラキドン酸代謝などで老化が抑制され、活性状態でがん化が進行する。

放射線などによって色素幹細胞のDNAの二重鎖が切断されると、色素幹細胞が老化し、やがて毛包から排除される。その結果、髪の毛が白くなる。しかし、これによってがん化リスクのある遺伝子が排除され、健康が保たれるということだ。

一方、発がん物質や紫外線によるストレスを受けた色素幹細胞では、細胞の老化を抑制する力が働き、がん化のリスクを持つ幹細胞は毛包に留まることとなる。そして、がん発生の危険性が高まるわけだ。

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髪の毛が黒いと見るからに若々しくて健康そうだが、頭皮の内側では、発がん性物質によって老化が抑えられるかわりにがん化が進むという皮肉なことになっている恐れがある。この研究は「安易に頭皮を活性化するとがんのリスクを上昇させうる」ことを意味するという。白髪が急に回復する現象がメラノーマの警告サインだとする症例報告もあり、老化とがん化のプロセスがよく理解されるまでは、科学的根拠の薄いアンチエイジングにはご注意ということだ。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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