四本の脚で水中をちょこちょこと歩く奇妙な両生類、ウーパールーパー。昭和時代に一大ブームを巻き起こしたこの生物は、現在でもペットとして人気を博している。
実はこの「ウーパールーパー」という名前が日本発祥のキャラクター名であることをご存知だろうか? 彼らの正式名称は「メキシコサンショウウオ」である。ウーパールーパーという呼称は日本でしか通用しないのだ。
一生エラ呼吸の「ネオテニー」
そんな彼らは「アホロートル」とも呼ばれる。これはメキシコサンショウウオを含む、トラフサンショウウオ科の総称だ。
日本人からしてみれば、「アホロートル」という名称はひどい罵倒であるように感じられる。「アホ」で「ロートル(中国語で年寄り・老人の意)」とは、救いようがない。さながら、無能なベテラン社員に対する蔑称のようだ。
しかしこれは完全な誤解である。アホロートルとはナワトル語(アステカ文明で用いられていた語)で「水の怪物」などを意味する、仰々しい名称なのだ。更にアホロートルはアステカの神話にも関連している。火と稲妻の神ショロトルは自らの死を拒み、様々な動物に変身し、最終的にアホロートルに化けたのだ(ちなみにその後、彼は捕まって生贄にされたそうだ)。間抜けな響きとは裏腹に、アホロートルには偉大で壮大な歴史が刻まれているのである。
ところで、そんなアホロートルの生態にはユニークな特徴がある。図らずも、彼らは「ロートル」になることができないのだ。
ネオテニー(幼形成熟)という言葉がある。個体として大人でありながら、子どもの器官や性質を残す生態のことだ。
両生類であるアホロートルには尻尾があり、四足歩行で水中を歩いて過ごす。まるでオタマジャクシがカエルに変態する途中のような姿を、一生維持しているのだ。一般的な両生類が幼生期に捨てるエラ呼吸を、アホロートルは死ぬまで大事にしている。これは彼らがネオテニーであるからに他ならない。
その特殊な性質ゆえ、彼らは凄まじい再生能力を持つ。手足はおろか、脳を切断されても再生させることができるのだ。幼い姿に留まり、いつまでも成長のための遺伝子を持ち続けているからこそ、彼らは若々しい姿を(あるいは、心までもを)保っていられるのだ。
すっかり中年となってしまい、「アホ」な「ロートル」に間近まで迫ってしまった筆者にとっては、実に羨ましい生態である。特に最近は腰が痛いので、再生能力を借りて若々しい腰を再現できないものだろうか。あわよくば、思春期の溌剌とした、無鉄砲な冒険心を蘇らせられないだろうか。



