経済・社会

2025.12.09 15:15

オープンファクトリーという「現象」が示す、次世代の地域産業政策

地域経済の活性化に必要なのは、補助金でも大型施設でもありませんでした。「工場見学、面白いですよね」──この何気ない、ひと言から始まったオープンファクトリーの取り組みは、行政と企業の関係を根本から変え、13市町村92社を巻き込むムーブメントへと成長しました。


現代の日本において、地域経済の活性化は喫緊の課題であり、八尾市で職員を勤めていた行政時代も、経済対策に力を注いでいました。グローバル化の波と少子高齢化の進行は、中小企業にとってかなり大きな試練です。しかし、その答えは、意外にも「あそび」や「偶然」の中に隠されているのかもしれません。

そこにあったのは、「競争」ではなく「共創」。そして、支援する側とされる側という上下関係ではなく、対等なパートナーシップです。

この6年間で証明されたのは、地域を動かすのは「モノ」ではなく「ヒト」であり、その熱量こそが次世代の地域産業を形作るという事実でした。

今回のコラムでは、八尾市職員時代、近畿経済産業局時代に同僚だった津田哲史との対談を通じて、「あそび」や「偶然」から生み出された全国でのムーブメントを紐解いていきます。これは単なるオープンファクトリーや工場見学イベントではなく、地域と企業、そして人々の関係性を根本から変革する、壮大な社会実験の記録です。

何が変わったのか──3つの転換

FactorISMのプロジェクトが示したのは、従来の地域産業政策からの明確な転換でした。

1. 「集中」から「分散」へ 特定の施設に人を集めるのではなく、まち全体をパビリオンとして捉える。各企業がそれぞれの場所で輝く、分散型のモデルへ。

2. 「支援」から「共創」へ 行政が企業を「支援する」のではなく、対等なパートナーとして共に目標に向かう関係性の構築。

3. 「モノ」から「ヒト」へ 技術や製品ではなく、そこで働く人々の熱量や想いこそが、地域の価値を生み出す。

この3つの転換が、どのようにして生まれたのか。その物語は、意外にも「遊び心」から始まりました。

始まりは「遊び心」から、政策への昇華

対談は、1つのアイデアがどのようにして大きなムーブメントへと発展したか、その原点から始まります。

きっかけは、津田さんが「工場見に行くとか、役人にとっては結構当たり前に出来てしまうことですが、一般の方々にとっても面白いですよね」と口にしたことでした。

この何気ない、ひと言に、私はすぐに反応しました。インターネットで当時耳にしたことのあったオープンファクトリーイベントである燕三条の「工場の祭典」を調べ始めたのです。二人はすぐに意気投合し、実際に現場で自分たちで肌で感じてみようと訪問を企画しました。

大阪府の市町村職員研修の助成金を活用して、墨田区、大田区、燕三条など全国の事例を視察。業務の都合を調整し年次休暇をとりながらも、半分は「政策研究」として、もう半分は、自分たちも訪問して楽しみたいという「遊び感覚」でこの研究活動を進めていきました。

研究会の名前も「おふらぼ」と命名し、「オフにフラッとフラットに政策を語り合う研究会」という意味と「オープンファクトリーラボ」という意味を込めて活動していました。

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編集 = 皆川睦美

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