スマホ上での「1450億時間」。エクサバイトの情報消費と『書店』という不図の中で触れたように2003年度に20880店あった書店は、2023年には10918店と、約半分に減り、書籍の市場規模は約1兆円から約6500億円になった。
日経MJで「作家・北方謙三氏、出版不況に物申す」が書かれたのは、今から2年前。北方氏は図書館で新刊を取り扱うことに対して苦言を呈していた。図書館の存在が市場の縮小にも影響していると云う。
意外? 公立図書館数は20年で800館近く増
図書館の数は公開されている。文部科学省の公立図書館関連データによると、1999年には2592館だったが、2021年には3394館と増えている。また、蔵書数は2001年の1億9千5百万冊から、4億4千8百万冊に増えている。
図書館の利便性、そして、本を通して知識を欲しい人にあまねく行き渡らせるという図書館の役割を考えると、図書館における新刊の扱いと出版不況の関係を紐解くことは頭の痛い問題である。
そして、この四半世紀の書籍市場を振り返ると、図書館以外にも考慮しなければいけないのは、古書流通(リユース)である。
環境省環境再生・資源循環局総務課リサイクル推進室のリユース市場規模調査によると、2020年の書籍のリユース市場は1029億円と推定されている。世に出た書籍がすぐリユース市場に出るわけでないため、遅効性を考慮する必要があるが、書籍の市場規模約6500億円を考えるとそれなりのインパクトのある数字に見える。
なお、ブックオフグループホールディングス株式会社の2025年5月期ファクトブックによると、同社の商品売上金額構成比のうち、書籍の占める割合は22.5%となっており、事業セグメントの売上から推計すると234億円となっている。
ここで気にかけなければいけないのは、古書の価格は新刊よりも低く設定されている場合が多く、冊数で考えると金額以上のインパクトが出ていると考えられる点である。
また、この四半世紀の間、2006年に国連(当時の事務総長はコフィー・アナン氏)が機関投資家に対しESGを働きかけたことにより、企業における環境への配慮がより重視されるようになっていったことも、企業や組織の活動や人々の消費行動に少なからず影響を与えていると思われる。
冒頭の取材記事内で北方謙三氏は「図書館が公共のモノといってタダで新刊を読ませ過ぎている」と憂える。
図書館システムを通じて1冊の書籍の回読率が上がる、もしくは、書店を通じて読者に出会えなかった新本が古書流通市場で読者を獲得することは、本の一生にとってはある意味幸せと考えることもできる。だが、究極の知財商品である書籍が、新刊よりも安価で流通することが普通になる、北方氏の言葉を借りれば図書館が本を「タダで」読ませることが、ただでさえ瀕死の出版業界の体力をより摩耗させる(作家を育てる上でもネガティブになる)ことも事実かとは思う。
図書館や古書で書籍を読むことは是なのか、出版業界の趨勢を取り巻く環境を踏まえると考えさせられることが多い。



