「多様性は攻めであり守りでもある」
アシックス常務執行役員の甲田知子は、実感を込めてそう語る。同社がケニアで展開するマラソン選手育成キャンプで、運営メンバーに女性社員が加わったところ、女性選手の人権問題が初めて指摘された。
「同質性の高いチームは気づきが少なく、優れたアイデアが生まれにくい。社内でもチーム編成が偏っていたら指摘します。それが私の役割だと思う」
2016年にアシックスに中途入社した甲田は、念願かなって東京五輪関連事業の担当に。パラアスリートと交流を深めるなかで、障がい者のスポーツ参加には周囲の無理解や偏見による高いハードルがあると知る。この経験が、今年4月に設立された財団の理事長への抜てきにつながった。
「ASICS Foundation」は、経済的・社会的理由でスポーツに取り組むことが難しい人々を支援する財団だが、立ち上げは難航した。財団は同社の保有株式の配当を原資とするため、株主から反対を突きつけられたのだ。アシックスは反対派と数百回にわたり面談を重ね、財団の意義を丁寧に説いた。
アシックスはここ2年で時価総額が4倍に急成長。「利益が出ている今だからこそ財団を設立できた」と話す。
「事業活動だけではスポーツの機会が届かない人もいる。財団の活動により、スポーツに取り組んで心身が強くなる人が増えれば、経済も活性化し、それによって社会全体が幸せになる。その大きな輪の実現を目指したい」
こうだ・ともこ◎1968年生まれ。短大卒業後、日本生命保険、日本IBMに勤務。ナイキジャパンを経て、2016年アシックス入社。20年に執行役員、スポーツマーケティング部門を統括。22年に常務執行役員、25年4月より財団理事長を兼任。



