海外

2025.10.08 10:30

中国に勝つ「自動航行する無人高速艇」の理想──造船大国を夢見る新興の現実

Saronicの自律航行艇「Corsair」(C)Saronic

製造性と労働力確保、工場設計と株式インセンティブ

Saronicは、より安価かつ迅速に船を製造するために多角的な戦略をとっている。その中核となるのが、設計段階での「製造性」と「モジュール性」への徹底したこだわりだ。マヴルーカスによれば、マローダーは主要部品がわずか7つしかないという。

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船の構造の単純化は、熟練労働者不足に悩む造船業界において、採用できる労働者層を広げる効果もある。モーガンは「IKEAの家具マニュアルのように分かりやすい作業手順書」を作成していると述べている。

彼が設計した工場は「高く、白く、明るい」空間を特徴としており、コルセア工場の映像ツアーでは光沢のある床が輝いている様子が映し出されている。「(私たちは)従業員に職場でワクワクしてほしい」とモーガンは語る。また、すべての従業員が自社株の持ち分を得られる仕組みも、そのモチベーションを高めている。

運用課題と維持管理問題、軍と業界の長期的懸念

Saronicの成功を左右する大きな要因の1つは、軍が多数の無人艇を維持・管理するための仕組みをどのように確立していくかにかかっていると、コンサルタントのフーパーは指摘する。そして、その道のりはまだ長い。

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どこに船を係留するのか。どこで整備するのか。どうやって必要な遠方の海域まで移動させるのか。海上でタンカーに横付けして燃料補給を行う際の手順──これは衝突事故にもつながりかねない難しい操船だ──についても課題は山積みだ。「こうした基本的なことすら、まだ何も確立されていない」とフーパーは語る。

もう1つの大きな課題は、電子機器の耐久性だ。搭載される大量のセンサー類が、塩害や荒波といった過酷な環境にどれほど耐えられるのかだ。さらに、通常の摩耗や外的要因による損耗率がどの程度になるのかも問われている。「海洋観測ブイにちょっかいを出す人間は少なくない。あるいはアザラシがやってきて『お、これは座れそうだ』と乗っかって壊してしまうこともある」とフーパーは苦笑する。

マヴルーカスは、Saronicの強みが強力なVCからの支援にあると考える一方で、政府の支援にも期待を寄せている。議会では現在、防衛関連の調達を迅速化し、造船業を活性化させるための複数の法案が審議中で、そこには造船所への投資に対して25%の税額控除を導入する案が盛り込まれている。

競合他社と業界の反応、支援継続への疑問

一方、Saronicのルイジアナ州の造船所の道路を挟んだ向かいには、地元の小型船メーカー、メタル・シャーク社の同規模の施設がある。同社も同様の市場機会を見据え、海兵隊向けの無人艇を開発している。CEOのクリス・アラードは、Saronicの進出についても冷静だ。「隣人は選べないものだ」と彼は笑う。

アラードは、最近急増しているVCの造船業への関心を興味深く見ている。そして、この労働集約的な産業を変えるにはどれほどの時間と資金が必要か、そして政権交代によって政府支援がどれほど早く失われる可能性があるのかを、投資家たちが本当に理解しているのか疑問を抱いている。

「造船は、何十年もの時間をかけて取り組む競争だ。もしこの業界が過去40年と同じような停滞状態に戻るようなことがあれば、それは非常に興味深い議論になるだろう」とアラードは語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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