デジタルツールは本来、生産性を高めるためのものだ。しかし、それらが多すぎて混乱を生むとどうなるか。「デジタルツール疲れ(digital tool fatigue)」と呼ばれる新たな技術課題がチームの協働、従業員のウェルビーイング、そして生産性を損なっている。なぜか。ツールが多すぎ、気を散らす要素に対処する時間が足りないため、メンタルヘルスと生産性の双方に懸念が生じているからだ。専門家は、この問題は新しいものではないが、職場にAIが導入されて以降、悪化していると主張する。
「デジタルツール疲れ」とは何か
2023年、筆者はForbes.comで従業員の業務過負荷についての記事を書いた。ある調査では、労働者の96%がデジタルツールは仕事の進捗に役立っておらず、燃え尽きを招いていると答えていた。従業員は会話のフォロー、データの探索、細かな調整業務のやり繰りといった「見えない作業」への不満を訴え、より多く働くのではなく、より賢く働けるようにするツールを求めていた。
「アプリの切り替え」は生産性を高めるどころか、吸い取っていた。労働者は、最大の課題のひとつが複数のプラットフォーム間を行き来することだと訴え、約半数が、異なるタスクをひとまとめに処理できる単一のソリューションを望むと述べている。
業務を効果的に進め意思決定するために必要なデータへのアクセスが不足していることが、進捗を阻む最大要因のひとつだと彼らは感じていた。当時のツールは、十分な洞察を得て意思決定する能力を制限していた。
従業員は、本来は最も重要なことに注力したいのに、あらゆることに取り組まざるを得ないことでストレスを感じていた。単なるToDoや締め切りの管理にとどまらず、会社に最大のインパクトをもたらすタスクを定義し優先づけしてくれるツールが必要だと彼らは述べた。
多くの従業員が望んだ主な改善は、少なくともメールの作成、顧客やクライアントからの質問への回答、文書作成といったコミュニケーション関連のタスクの一部をAIが担うことだった。
そして現在、ほぼ3年が経ち、AIが大半の組織に深く根づくなかで、この技術はすでに混乱していた状況をさらに悪化させ、「デジタルツール疲れ」と呼ばれる事態を招いているようだ。職場のチームは仕事を完了させるためにデジタルツールに頼るが、テックスタックが過度に肥大化すると「デジタルツール疲れ」が生じ、生産性が低下し始める。コンテキスト切り替え、通知、重複するプラットフォームが生産性を妨げ、時間、集中力、メンタルヘルスのコストをチームに負わせるのである。
11業界の米国の専門職1000人を対象にしたLokaliseによる新たな調査は、デジタルツールの過剰が現代の職場における協働、ウェルビーイング、生産性をいかに静かに蝕んでいるかを明らかにした。結果は、筆者の2023年の記事で報告したものと同様のストレス要因を示している。



