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2025.10.07 10:00

【30UNDER30は今】選出後に転身、150億円調達で「高級版Airbnb」目指す若き起業家

Shutterstock.com

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起業家のジョン・アンドリュー・エントウィッスルの父親は、今から約14年前、思いがけないメールがきっかけで、当時13歳の息子が数十万ドル(数億円)規模の収益を上げるゲームサーバー事業を運営していることを知った。息子は、ニューヨークの弁護士である父のメールアドレスを、マイクロソフトの弁護団とのやりとりのメールに、CCで加えていたのだった。ハイテク大手のマイクロソフト側は、同社が商標権を持つと主張する名称を出願したとして少年起業家に対して訴訟をちらつかせていた。

「『おい、お前はネットで一体何をしてるんだ?』と、父から言われた」とエントウィッスルは当時を振り返る。商標の問題を片付けた父はその後、「会社の税金は払ったのか?」と息子に尋ねた。若かった息子は、まだ払っていないと白状した。「父と一緒に会計士のところへ向かった。結局、会計士への支払いの方が、収益よりも高くついたけど、若い起業家としてはすべてが大きな学びだった」とエントウィッスルは語る。

クラウド開発スタートアップ「Coder」を創業し128億円調達、フォーブス「30 Under 30」選出

その後、マインクラフト関連の事業をいくつか立ち上げて小さな成功を収めた彼は、将来に向けて本腰を入れる決断をした。18歳で大学進学をやめたエントウィッスルは、2015年にクラウド開発スタートアップのCoderを創業し、ピーター・ティールのファウンダーズ・ファンドやカリフォルニアを拠点とするNotable Capitalから8500万ドル(約128億円。1ドル=150円換算)を調達した。

Coderはエンジニアの作業環境をローカルPCからクラウドに移行させ、共同作業を容易かつ効率的にする「コーダー向けのGoogleドキュメント」ともいえる存在となった。これを受け、エントウィッスルと共同創業者は2020年のフォーブス「30 Under 30」に選出された。

高級宿泊物件の短期レンタル事業「Wander」を創業、売上105億円を見込む

しかし、そのわずか1年後の2021年、彼は意外な方向に進んだ。Coderを離れたエントウィッスルは、テキサス州オースティンを拠点とする高級宿泊物件の短期レンタル事業に特化した「Wander」を設立したのだ。自動化を駆使して、完璧なバケーション体験を提供することを目指す同社は、レッドポイント・ベンチャーズやQEDインベスターズなどから1億ドル(約150億円)を調達しており、創業から4年の今年の売上総額は、7000万ドル(約105億円)に達する見通しだ。

1泊5万6000円から54万円の物件をAIで管理し投資家を驚かせる

Wanderの顧客は、他のサービスと同様にさまざまな物件を選ぶことが可能で、コロラド州ウィンターパークにある1泊370ドル(約6万円)の山岳ビューのコンドミニアムや、カリフォルニア州サウスレイクタホの1泊3600ドル(約54万円)の豪華な別荘などに宿泊できる。ラグジュアリー旅行の需要の高まりを追い風に、Wanderは物件のセキュリティから害虫駆除までをAI搭載ソフトで一括管理する仕組みを整え、投資家を驚かせてきた。

ホスト手数料は8〜12%、高利益率70〜80%を維持

Wanderは、Airbnbと異なり、ホストがスマートロックなどの自社ソフトに対応した機器を購入できるストアを用意しており、全体の約4割の物件がこのサービスを利用している。その他の物件はすでに対応機器や業者を導入済みだ。Wanderがホストに課す手数料は8〜12%と、Airbnbの15.5%と比べて低く、粗利率は70〜80%に上る。同社によれば、その理由は空室や無駄な支出が一切ないためだという。「質の悪い物件を大量に抱えていたら、今のような利益率は実現できなかったはずだ」とエントウィッスルは語る。

シリーズBで75億円を調達、市場規模は7800億円に拡大

高級旅行ブームを追い風にするWanderは、昨年5月に実施したシリーズBで5000万ドル(約75億円)を調達した。ボストン・コンサルティング・グループによると、この分野の世界支出は、2019年の42億ドル(約6300億円)』から2024年には52億ドル(約7800億円)へと拡大した。

この分野はもともと、余暇の旅行に大金を払う富裕層に支えられてきた。しかしロンドン拠点の調査会社ミンテルの旅行アナリスト、マイク・ガリナリは、いまや中間層の旅行者もラグジュアリーな宿泊体験に手を伸ばすようになっていると指摘する。「より良い体験や、豪華で人に自慢できるような旅をしたいと考える顧客が、以前と比べて明らかに増えている」と彼は言う。

経済不安でも体験型企業は有望、VCの関心が集中

そして今、経済が不安定さに直面するなかで、ベンチャーキャピタル(VC)にとって関税の影響を受けやすい製造業関連のビジネスへの投資は、リスクが高くなっている。だからこそ、日用品やその他のセクターに比べて関税の影響を受けにくい「エクスペリエンス」の企業の魅力は高まっていると、ガリナリは述べている。

Wanderよりはるかに規模の大きい競合も、その可能性を示している。Airbnbの売上高は、2023年の99億ドル(約1.5兆円)から2024年には110億ドル(約1.7兆円)超へと11%増加した。ブッキング・ドットコムの売上高も、同期間に214億ドル(約3.2兆円)から240億ドル(約3.6兆円)近くへと12%伸びていた。

エントウィッスルに言わせれば、この業界が底堅い理由は明白だ。「旅行業界は、大不況のような時期であっても比較的堅調だった。人々はそういう時だからこそ現実から逃れたくなる。旅は人間の本能の一部なのだ」と彼は言う。

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翻訳=上田裕資

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