起業家

2025.10.07 10:00

【30UNDER30は今】選出後に転身、150億円調達で「高級版Airbnb」目指す若き起業家

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原体験は“ハズレ”の宿、人々に幸せをもたらす事業を志す

次にまた会社を立ち上げるつもりではいたが、方向性は見えていなかった。「そこでコロラドにキャビンを借りて、世の中について考えることにした。20代前半で迎えた『中年の危機』みたいなものだった」と彼は冗談めかして語る。「着いてみると、典型的な“ハズれ”のAirbnbの宿だった。写真とは違うし、ベッドは寝心地が悪いし、暖房も効かない。でも不満はなかった。とにかく1人になって考えることが目的だったから」。

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そして、そのときにWanderのアイデアが浮かんだ。きっかけとなったのは、自身が10年をかけて他人のためにソフトウェアを最適化してきた経験だった。「ホストが自分の物件やサービスをよりうまく運営できるようにする“オペレーティングシステム”をつくれるのではないか」と彼は考えた。

Coder時代の投資家たちは再び彼と組むことに前向きだったが、旅行事業という新たな挑戦には懐疑的な声も少なくなかった。「VCの多くは私に連絡をくれて、B2Bソフトのアイデアなら1000万〜1500万ドル(約15億〜23億円)出資すると持ちかけてきた」と彼は語る。「でも私は、どこかのB2B企業のKPIをちょっと改善するようなものではなく、一生をかけて築ける人々に幸せをもたらす会社を作りたかった」。

2021年にWanderを立ち上げ

エントウィッスルは、2021年にWanderを立ち上げた。プレシードとシリーズAは結局、CoderのシリーズAを率いたレッドポイント・ベンチャーズが主導し、合計で約3000万ドル(約45億円)を調達した。創業から9カ月後、同社の保有物件はレイクタホやジョシュア・ツリーを含むわずか5件に過ぎなかったが、それでも2000万ドル(約30億円)を調達し、ウェイトリストの登録者は3万人を突破した。

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Wanderの売上総額は初年度に約400万ドル(約6億円)、翌年には800万ドル(約12億円)へと伸びた。2024年には米国内の物件数が1000件を突破し、売上総額は2500万ドル(約38億円)に達した。

物件数は約2000件超に拡大、Airbnbとの差別化

現在2000件超の物件を抱えるWanderは、物件数が約800万件のAirbnbや200万件のVRBOと比べればごく小規模なプラットホームだ。エントウィッスルは拡大に注力しているが、物件を追加するプロセスには明確な方法論がある。同社のオペレーティングシステムはまず、数百万件に及ぶリスティングを人工知能(AI)で分析し、安全性データや住宅の衛星画像といった要素を精査する。その後、ホストや物件管理者を審査し、通過した物件のみを掲載する仕組みだ。そして1度Wanderのネットワークに加われば、ソフトウェアがホストとゲストの双方のために物件管理のあらゆる細部を担う。

「私は、すべての物件がパフォーマンスの面でどう機能しているかを正確に把握したい。そしてシステムが自動的に、物件ごとに問題点を検知して私に知らせてくれる仕組みにしたいと考えている。Airbnbには、そのレベルの統合は存在しない」とエントウィッスルは語る。

Airbnbでは、ポートフォリオ全体でゲスト体験を測定している。しかし、それでは「不満な体験が覆い隠されてしまう場合が多い」と彼は指摘する。

Airbnbの巧妙さの1つは、ホスピタリティの責任をホストに委ねている点にある。だがそれこそが同社の評判を損なってきた要因でもある。悲惨な宿泊体験を防ぐ伝統的な方法としては、フランスのホテルチェーン、アコー傘下の高級レンタルプラットフォーム「OneFineStay」が取り入れたような、コンシェルジュによるサービスが挙げられる。

今年中に海外展開を開始し、2026年末までに物件1万件の確保が目標

Wanderは今年中に海外展開を開始し、2026年末までに1万件の物件の確保を目標に掲げている。筆頭株主として同社株式の20%を保有するエントウィッスルは、異なる文化に自らのビジネスを適応させる挑戦に意欲を示している。

彼は現在、最寄りのWander物件から約15キロ離れた、カリフォルニア州ソーサリートの明るい日差しが差し込むアパートに暮らしている。エントウィッスルは、この自宅をプラットフォームに載せてはいないが、それでも自身のホストとしての気質を隠せない。彼は、ここを訪れた人を、洗練された白い家具の向こうのツタに覆われたバルコニーに導き、その先に広がるゴールデンゲートブリッジの完璧な眺望でもてなすのだ。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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