欧州

2025.10.06 11:00

ハリウッド映画が再びロシア人の心をつかむ日は来るのか?

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ロシアが2022年2月に隣国ウクライナへの全面侵攻を開始すると、西側の企業や資本の大移動が始まった。23年末までに、ロシアで事業を行っていた1万社近くの西側企業が同国から撤退した。

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米国のハリウッド映画も例外ではない。道義的な怒りと風評被害に対する懸念から、米国の主要映画会社はロシアでの映画の配給を停止。米動画配信大手ネットフリックスをはじめとする企業もロシア国内でのサービス停止や買収の中止に踏み切った。

ロシアの映画産業への影響は壊滅的だった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)からようやく回復しつつあったところで、突然孤立した状態に陥ったからだ。米映画大手ユニバーサル、ワーナー・ブラザース、ディズニー、ソニー、パラマウントの各社が製作した作品はかつて、ロシアの興行収入の75%程度を占めていたと言われている。これらの映画の配給が停止したことで、ロシアでは数多くの映画館が閉鎖に追い込まれ、社員も解雇された。

だが、ハリウッドの撤退がロシアの映画業界に打撃を与えた一方で、同国のプロパガンダにとっては追い風となった。予想通り、西側の映画の不在によって生じた空白は、ロシアの国営メディアが制作した作品によって即座に埋められたのだ。ロシア政府は22年半ば、英雄主義、国家の統一、軍への忠誠を促進する映画制作への資金提供を任務とする軍事愛国映画支援財団「ボエンキノ」を設立した。その後、23年の『証人』(ウクライナ侵攻を題材に、ウクライナ側の残虐行為を強調したロシア政府公認映画)や24年の『ドンバスの守護者』(ロシアによるウクライナ東部ドンバス地方での戦いをたたえる映画)といった作品が、国内に残された映画館を埋め尽くした。

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これらはすべて、ロシア大統領府(クレムリン)によるプロパガンダ攻勢の一環だった。現在では、文化省、映画基金、インターネット開発研究所が、ロシアの映画産業の主要な資金源となっている。言い換えれば、ロシアの映画産業はクレムリンによってソフトパワーの道具へと変貌させられたのだ。

同時に、ロシア政府は国内の視聴者が見られる作品に厳しい規制を課した。議会は24年、「ロシアの伝統的な道徳的価値観を傷つける」映画を禁止する規則を拡大するよう提案。これにより、国家が補助する愛国主義と公式に承認された道徳観が異論を押しつぶす文化的市場が形成された。

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翻訳・編集=安藤清香

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