バイオ

2025.10.06 12:00

人間の脳と同じ電圧で動作、「脳のような」ニューロンを科学者らが作製

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生体レベルの低エネルギー

このデバイスは、1回のスパイク当たり数ピコジュールで発火できる。これは、通常0.3〜100ピコジュールを用いる生体ニューロンに非常に近い。これは理論値ではなく実測値だ。回路の電圧と電流の測定がその主張を裏付ける。

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この効率こそが、インテルやIBM、BrainChip(ブレインチップ)のようなスタートアップを含む企業がニューロモーフィック・コンピューティングに注目する理由である。人間の脳は約20ワットで動作するのに対し、同じ仕事をするデータセンターはメガワット単位の電力を消費する。

しかしヤオは、エネルギーだけがすべてではないと警告する。「重要なのは、単一の人工ニューロンのエネルギーだけではありません。同様の方法でネットワークとして接続することも必要です。私たちはまだそこには到達していません」と述べる。

純粋に電子信号のみに依存する既存の商用ニューロモーフィック・チップとは異なり、UMassのニューロンは化学にも応答できる。チームは回路にナトリウムとドーパミンのセンサーを組み込んだ。ナトリウム濃度は発火頻度を着実に押し上げた。ドーパミンは「アンビポーラ効果(両極性効果)」を引き起こし、低濃度では発火が増加し、高濃度では低下した。

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これは私たちの生物学が行っていることにほかならない。私たちのニューロンは化学信号に基づいて発火を調整する。UMassは、それがハードウェアでも可能であることを示した。ただし現時点では限られた分子に対してのみだ。より広範なセンシングには、新たな表面処理が必要になる。

同グループは、このニューロンが生体組織と接続できることも証明した。培養皿内の心筋細胞に接続したところ、人工ニューロンは細胞の通常の拍動(0.4Hz)では静かなままだった。ノルエピネフリンにより細胞の拍動が速くなる(0.6Hz)と、人工ニューロンは同期して発火した。

「現在のハードルは、ニューロン信号の振幅全体を捉える能力がないことです。これはバイオセンシング分野で知られた課題です」とヤオは語る。人工ニューロンは信号を処理できる。ボトルネックは、それを拾い上げるセンサー側にある。

このデバイスは、実際のニューロンと同様に、発火に小さな変動を示す。確率的計算に役立つプラス要素と見る研究者もいれば、管理すべきノイズと見る研究者もいる。UMassは、発火率が高いほど変動が低下することを見いだした。これは生体の挙動を反映している。これが機械学習に有用かどうかは、システム設計に依存する。

今後の道筋

現時点で最も明確な応用は、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)や超人的なAIではない。医療診断、創薬スクリーニング、毒性試験など、少数の人工ニューロンが細胞信号を直接解釈できるニッチなバイオセンシング・プラットフォームである。

今後10年で事態はどこへ向かうのか。

「10年という時間は、私たちにあまりにも多くの驚きをもたらし得ます」とヤオは説明する。「10年前を考えてみれば、ChatGPTのようなAIを想像すらできなかったでしょう。だから私は、大きな希望と『何でも可能だ』という信念を抱いて進みたいと思います。そうでしょう?」。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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