私たちは「何のため」に生きるのか
とはいえ、このような未来がこれからの1〜2年で多くの人のもとに訪れることはない。その日がくるまで、私たちは「今の人間が、どのように健康・幸福に過ごせるか」というウェルビーイングの観点について考えておく必要があるだろう。
「人類は何歳まで生きられるのか」という問いの前に、「私たちは本当に長く生きたいのか、そしてその人生で何を成し遂げたいのか」という問いに対して熟慮しなければならない。
興味深いことに、ある調査では「100歳まで生きたいか」という問いに対し、日本は調査対象6カ国中最下位という結果が出ている。この結果は、単に長生きを望む人が少ないだけでなく、長生きした際のビジョンやその目的を見出せていない現状を示しているのかもしれない。
不老長寿を研究する著名人たちの言葉は、長く生きる上で何が重要なのかを教えてくれる。心臓専門医のエリック・トポル氏は、85歳以上の人々の健康維持において、「遺伝子よりも生活習慣や教育水準、高齢になっても交流や活動を続けること」の重要性を指摘している。ハーバード大学のロバート・ウォールディンガー教授は、幸福な人生の鍵は「人間関係の質」にあると強調する。また、バイオハッカーで起業家のブライアン・ジョンソン氏は、「個人の努力とテクノロジーの融合による新たな長寿のあり方」を重要視し、模索している。
これらの意見が示しているのは、長生きの価値を高めるのは寿命そのものではなく、精神的・社会的な豊かさであり、それがあってこそ「生きたい」という意欲が生まれるということだ。
我々スクラムスタジオでは、過去3年にわたりウェルビーイングに関連する取り組みを実施する中で、コミュニティの要素がウェルビーイングに大きく寄与することを改めて確認した。
このトレンドを背景に、スクラムベンチャーズの投資先であるマッチングプラットフォーム「222」は、テクノロジーを活用して人々のリアルなつながりを強化している。すでにサンフランシスコやニューヨークといった米国の主要都市に加え、トロントやロンドンへも拡大し、順調に成長を続けている。機械学習とAIを用いて、偶然という不完全で余白のある環境をデザインし、人間らしいつながりを創出している点が特徴だ。恋愛目的にとどまらず、孤独の解消や新しいコミュニティへの参加を促している。
また、ランニングアパレルブランド「Bandit」は“コミュニティファースト”を掲げ、広告ではなく口コミやリアルな体験を通じてブランドを成長させている。彼らは商品の提供だけでなく、ユーザー同士のつながりを重視したビジネスモデルを展開しており、2025年7月には日本に上陸し、東京と大阪に2店舗をオープンした。


