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2025.10.09 10:30

現実に迫る「不老不死」の世界、そもそも私たちは「何のため」に生きるのか?

拍動しているiPS心臓の動画(パソナグループ提供)

2025年春、カリフォルニア州バークレーで約8週間限定で開催された「Vitalist Bay」は、200名超の研究者と70名の居住者が参加した実験都市として注目を集めた。ロンジェビティのテーマパークといった感のある本イベントは、最新のテクノロジーやウェルネスプログラムを気軽に体験可能になっていた。さらにオンラインでは、バイオマーカー診断(DEXAスキャン、VO2 Max、バイオバンキング)を通じて、リアルタイムに自分のデータを取得できた。

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2025年春、カリフォルニア州バークレーで開催された「Vitalist Bay」
2025年春、カリフォルニア州バークレーで開催された「Vitalist Bay」

自身の健康状態への理解を深めるという観点では、バイオマーカーの民主化も進んでいる。米国では、エイジングを含む100種類以上の検査項目を499ドル(約7万5000円)程度で簡単に受けられるサービスが浸透しつつあり、若い世代も積極的に自身の健康状態について知ることができる。

例えば、Function Healthは、100以上のバイオマーカー(栄養、ホルモン、炎症、臓器機能など)を定期的に測定・可視化する会員制サービスを展開。Superpower Healthは、健康寿命の延伸だけでなく、日々のパフォーマンスを強化することに重点を置き、ジム会員の感覚で健康管理を可能にする検査サービスを提供している。

不老長寿は誰のもの? テクノロジーと自由の未来

かつて富裕層や加齢を気にする中高年層が中心だった検査が、年齢を問わず可視化できるようになり、若い世代の間でも関心が高まっている。最近、米国で行われた調査では、若年成人の間で成功の定義が変わりつつあり、富や地位、職業といった従来の指標から、身体的・精神的な健康へと焦点が移行していることが示されている。ソーシャルメディアを通じて大量の情報に触れる中で、健康や人間関係といったホリスティックな視点から人生の豊かさを追求する流れが広がっている。

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この背景には、「国家よりも、テクノロジーこそが個人の自由を最大化する」というテクノリバタリアニズム(technolibertarianism)の思想もある。国家の規制や介入をできるだけ排し、市場と技術革新の力で社会課題を解決し、個人が望む生き方を選べる社会を目指すという考え方だ。2000年に技術評論家Paulina Borsookが著書『Cyberselfish』で批判的に紹介したことで広く知られるようになった。

ロンジェビティの技術は、個人の選択肢を広げる技術として支持されやすく、厳格な規制(長期の臨床試験や過度な行政審査)への反対姿勢も見られる。ピーター・ティールをはじめとしたテクノリバタリアンたちは、死を戦うべき対象と捉え、技術で克服しようとしている。

今後、テクノリバタリアニズムは、ロンジェビティ領域の技術革新と歩調を合わせながら、より広範な社会契約の再構築を促すことになるだろう。

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文=渡部優也・清水寿乃 編集=安井克至

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