不死鳥の血を飲んだ者は、永遠の命を得られる──。手塚治虫の代表作『火の鳥』は、不老不死という人類の夢を描いている名作だが、かつて空想の中でだけ存在した世界が、現実のものになりつつある。
その一例とも言えるのが、現在、開催されている大阪・関西万博の民間パビリオンの一つでパソナグループが運営している「PASONA NATUREVERSE」にあるiPS細胞から作られたミニ心臓だ。まるで心臓自体が生き物であるかのように収縮と拡張を繰り返し、命輝く未来社会をカタチにした展示として、話題を呼んでいる。
注目を集めるロンジェビティの世界的コンペ
2024年に資金調達を行った不老長寿を研究するスタートアップの資金調達額は、グローバルで85億ドル(約1兆2800億円)に上る。今や、ロンジェビティの技術は広く実装の世界に滲み出しており、大規模なコンペティション、そして街での実装につながる動きが見られる。
1994年に設立した非営利組織XPRIZE財団は、これまでさまざまなテーマの大規模なコンペを通じて、人類の課題を打ち破るテクノロジーを一般社会に広げてきた。その最新の挑戦が、健康寿命の延伸をテーマにしたXPRIZE Healthspanだ。
XPRIZE Healthspanの評価軸は、認知機能、筋機能、免疫機能の3つ。この3機能を10〜20年分改善する治療法の有効性を1年以内に示す必要がある。グランプリ受賞チームが確定するのは2030年という長期戦である。審査員にはUCSFのCummings名誉教授ら加齢医学のトップランナーが並んでいる。
5月12日、世界600超の応募の中から40チームがセミファイナリストに選ばれ、それぞれに25万ドル(約3億7500万円)が支給された。今後選ばれる優勝チームには5000万ドル(約75億円)、総額1億ドル(約150億円)という破格の賞金が用意されている。なお、先に紹介した日本の細胞内のオートファジー機能の解析技術をもつAutoPhagyGoもセミファイナリストに選考されている。
ラボレベルで生まれた革新的な技術を社会に実装するためには、莫大な資金と継続的な情熱が不可欠である。XPRIZE財団は破格の賞金を提示するとともに長期的な成果の提示を求めることで、単なる技術の称賛にとどまらず、社会に普及させるための強力な推進力を提供している。その結果、参加者にとっても真剣に挑戦する理由が生まれ、本気で応募・参加する動機となる。
老化を技術的なバグと見なし、その修正を現実の技術競争で進めていくXPRIZE Healthspan。日本でも中舘尚人氏ら、経済産業省の若手有志が中心となり、このコンペを盛り上げる取り組みを行なっている。
今回投資家イベントを日本で主催したGlobal Healthspan X Allianceの須藤潤氏は、「日本は長寿経済における世界的に重要な拠点となりつつある。深い科学的厳密性、文化的ルーツ、そして高齢社会の切迫性を融合させ、世界が無視できない投資機会を創出する実力がある。」と期待を述べている。
極めて高額で限定的だったロンジェビティのテクノロジーは、現在、徐々に多くの人が手を出せるものになりつつあり、街での実装を試みる動きも出てきている。



